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2018 年度 実施状況報告書

科学的証拠の信頼性評価法と標準鑑定法の確立に向けて

研究課題

研究課題/領域番号 17K03442
研究機関立命館大学

研究代表者

平岡 義博  立命館大学, 衣笠総合研究機構, 教授 (00786444)

研究分担者 藤田 義彦  徳島文理大学, 人間生活学部, 教授 (40598603)
研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワード司法と科学の乖離 / 証明力 / 証拠能力 / AI技術 / 異同識別鑑定 / 鑑定主文 / 鑑定者心理 / OCME
研究実績の概要

2018年度は、5回の定例研究会議を行い、1回の海外調査を行った。
定例研究会議では、過去および現在進行中の再審事件について、科学的証拠の扱われ方、裁判への影響を検討し、司法と科学の相互不理解が公判を混乱させ誤判の要因になるケースがあることから、科学的証拠の証拠能力・証明力を科学者も十分理解する必要性に至った。そこで、科学鑑定に詳しい法学者を招き、勉強会を行った。「科学的証拠とこれを用いた裁判の在り方」をベースに解説を頂き、さらに昨今の裁判情勢を議論し理解を深めた。
次に、最近AI技術が鑑定にも使われ出していることに鑑み、当研究グループの千原名誉教授にAI技術の基本について講義を頂いた。人間にはブラックボックスとなる機械学習と統計解析による方法の違いを理解し、さらにAIを裁判の判決への応用も視野に入れる可否についも議論した。AIの情報源となるデータベースの質が問題であるが、より客観的な判決の補助手段としての活用が、いずれ社会的認知を得るかもしれない。
鑑定で必ず用いられる異同識別鑑定の問題点を検討した。二つの資料の異同の判断は、専ら鑑定者の主観によるところが多く、標準的な判断基準と共通の鑑定結果表現が必要である。鑑定結果は公判で鑑定主文として大きな意味を持つが、その表現が鑑定者によってまちまちであり、誤解の原因となっている。このガイドラインを策定するため、異同識別鑑定の原理と結果判断における鑑定者心理について研究した。
DNA型鑑定については、最も先端の研究所といわれるニューヨーク市主席医学官事務所(OCME)を視察した。OCMEにおいては過去に鑑定上の様々なスキャンダルがあり、改善を重ねている状況は我が国の鑑定機関にも非常に有益と考えられた。その他に鑑定倫理、袴田再審棄却決定の鑑定基準、ISO認証の必要性と問題点についても議論した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

科学鑑定の信頼性評価についてはPCAST報告が参考になり、これを翻訳した。PCASTが重要視するブラインドテストによるエラー率の評価は、実際の鑑定の信頼性を評価するものとなりうる。一方で、鑑定法そのものがどれほど信頼できるものかについては、標準的(または理想的)な科学的要件をリストアップし、当該鑑定法がどれだけ要件を満たしているか、が評価されなければならない。そのため、必要な科学的基準を研究しチェックリスト法によって数値化する方法を検討中である。
上記の信頼性基準を基に、各種鑑定の標準鑑定法(SOP)を策定する予定であるが、これについてはすべての鑑定法を網羅するには時間を要し、DNA型鑑定と画像鑑定に焦点を絞り、異同識別鑑定についてはそのガイドラインを示すに留める予定である。
海外視察については、2017年度テキサスヒューストン法科学センター、2018年度ニューヨーク主席医学官事務所(OCME)を実施した。それぞれにおいて、現在の我が国の科学鑑定情勢並びに司法情勢の後進性を実感したところである。当初の予定では、ヨーロッパの研究所の視察を行う予定であったが、研究分担者の都合により見合わせることとした。
法科学研究所への品質管理システムの導入とその課題について、龍谷大学犯罪学センターの研究会で我が国のISO TC272 会長のお話を伺った。科学鑑定の信頼性を構築するには、鑑定者や鑑定方法だけでなく、研究所環境全体の世界基準を満たす必要がある。ただしこれを維持するにはこれに見合ったインフラ整備(施設や法令)と少なからぬ予算が必要となり、さらに検討する予定。

今後の研究の推進方策

本年度は、標準鑑定法(SOP)の策定と研究所へのISO認証の導入プロセスを研究する。さらに研究課程で浮上した「鑑定者心理」について心理学的な検討をする予定であるが、時間切れになる可能性もある。
この3年間の研究成果について、9月に研究報告会を開催する予定である。内容については(1)無罪事件と科学鑑定 (2)科学鑑定の課題と対策 ①DNA型鑑定 ②画像鑑定 ③異同識別鑑定 (3)科学鑑定の信頼性評価の基準 (4)標準鑑定法の基準 (5)鑑定倫理 である。それぞれのトピックスについて担当者が報告し質疑応答を行って研究内容をチェックする。
さらに年度末までに、報告書を作成しできれば出版する予定である。内容は上記の項目で担当者が執筆し、付録としてPCAST報告書(日本語版)を付ける。
なお、この研究は科学鑑定の信頼性評価についてガイドラインを示すものであったが、さらに鑑定分野を拡大し、より具体的で詳細な提案を行う必要がある。海外視察も欧米だけでなく韓国や中華民国など東アジアの国々に学ぶ点が多いと考えられる。さらにこの研究を継続する必要性を感じている。

次年度使用額が生じた理由

次年度使用予算が生じた原因として、分担研究者がイギリス出張を予算不足のため取りやめたことが原因と考えられるが、残余の予算で中華民国(台湾)の法科学情勢の調査を実施する方向で検討する。
なお、中華民国はDNA鑑定に関する法案を成立させるなど、司法と科学鑑定の改革は我が国よりも進んでおり学ぶべき点が多い。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2019 2018

すべて 雑誌論文 (4件) 学会発表 (2件)

  • [雑誌論文] ヒューストン法科学センターの取組み(下)日米の法科学の比較研究2019

    • 著者名/発表者名
      平岡義博
    • 雑誌名

      季刊刑事弁護

      巻: 97 ページ: 132-137

  • [雑誌論文] 米国における法科学の信頼性向上に向けた実践-ニューヨーク市主席医学検査官事務所の事例研究-2019

    • 著者名/発表者名
      平岡義博
    • 雑誌名

      立命館人間科学研究

      巻: 40 ページ: 印刷中

  • [雑誌論文] ヒューストン法科学センターの取組み(上)日米の法科学の比較研究2018

    • 著者名/発表者名
      平岡義博
    • 雑誌名

      季刊刑事弁護

      巻: 96 ページ: 106-111

  • [雑誌論文] アメリカ合衆国におけるDNA型鑑定の検証と対策2018

    • 著者名/発表者名
      藤田義彦
    • 雑誌名

      犯罪学雑誌

      巻: 84 ページ: 130-134

  • [学会発表] ニューヨーク市のDNA型鑑定と科学鑑定の適正化-日米の法科学事情-2018

    • 著者名/発表者名
      平岡義博
    • 学会等名
      人間科学研究発表会
  • [学会発表] ニューヨーク市主席医学官事務所におけるDNA型鑑定(第1報)2018

    • 著者名/発表者名
      藤田義彦
    • 学会等名
      第55回日本犯罪学会総会

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公開日: 2019-12-27  

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