研究課題/領域番号 |
17K03443
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山本 周平 北海道大学, 大学院法学研究科, 准教授 (10520306)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 不法行為法 / ドイツ法 |
研究実績の概要 |
2019年度には,2019年2月に開催されたゲルト・ブリュッゲマイアー教授(ドイツ・ブレーメン大学)の講演に関し,既に行っていた講演原稿の翻訳を共訳者とともに再度検討し,翻訳(前半部分)を刊行した。ブリュッゲマイアー教授の講演は,不法行為責任を過失責任・企業責任・危険責任の3つに分けて体系化を図るものであった。これは,ドイツ法における通説からは距離を置くともに,英米法の影響も少なからず見られるものであり,比較法的観点からのドイツ法の相対化の必要性を感じさせるものであった。ブリュッゲマイアー教授の見解と,ドイツにおけるその他の少数説や英米法における議論との関係については,別途検討する予定である。 また,本研究に関連するテーマとして,ドイツ不法行為法の構造と体系に関する近時の議論についての論文を公表した。そこでは,我が国においても一部で不法行為法の立法的改革についての議論があることを背景として,ドイツの通説的見解と,それに正面から反対して責任法の再構成を企図する見解とを対比しつつ検討した。前者の見解は,過失責任・危険責任という責任法の複線性を基礎として,過失責任において問題となる違法性をドイツ民法823条1項・同条2項・826条という「3つの小さな一般条項」において具体化するというドイツ民法の態度決定を正当化するものであるのに対し,後者の見解は,そのような態度決定そのものを批判し,様々な責任原理から動的システムを介して責任基準を導出し,これを責任の成否の基準とするものである。この論文で行った作業は,本研究課題において立てた問いに直接答えるものではないが,その背景を構成するものとして重要性を有する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度にはドイツ法を題材とした論文を公表したが,それは総論的・抽象的な性格のものであり,物の危険に由来して生じた損害についての責任(物の危険に基づく責任)について解釈論的・立法論的な再構成を目指す本研究課題との関係では,さらに具体化を要するところである。しかし,このような課題は,不法行為法の構造および体系そのものと密接に関連するため,日本法に即した提言を行うに当たっては,なお慎重に検討する必要があると考えるに至った。このような理由から,研究期間を1年延長せざるをえなくなったため,達成度を「やや遅れている」ものと評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究においては本来3年の研究期間を予定していたところ,さらに1年延長して研究を実施することになった。その理由は,本研究課題に対して一定の解答を与える際に,不法行為法の構造と体系そのものをどのように理解するかということを抜きにしては考えられないため,この点についてなお慎重な検討を要すると判断した点にある。延長された期間においては,補充的な文献調査を行うとともに,できる限り意見交換を行うなどすることによって,研究成果のブラッシュ・アップに努めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究においては本来3年の研究期間を予定していたところ,さらに1年延長して研究を実施することになったため,延長された期間の研究活動に必要となる研究費を意図的に残すこととなった。これについては,補充的な文献収集のための費用や,研究報告を行うための出張旅費,他の研究者からの助言に対する謝金等に使用する予定である。
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