本研究課題は,ある物や施設の有する危険性が現実化したことにより生じた損害についての責任(物の危険に基づく責任)の正当化根拠および具体的規律に関し,ドイツ法上の議論(特に,危険責任の理論および社会生活上の義務の理論)を参照するとともに,それをヨーロッパ不法行為法の観点から相対化しつつ,解釈論・立法論の両面から検討しようとしたものである。 最終年度である2020年度においては,日本法に即した提言を行うに当たり,ドイツ法の検討結果を分析し,成果の取りまとめ作業を進めた。もっとも,ドイツ法上の議論においては,比較的最近の議論が低調であることもあって,伝統的見解を再確認する以上の成果を上げる確信がまだ得られていない。また,ヨーロッパ不法行為法との関係を見ても,例えばヨーロッパ不法行為法原則(PETL)の厳格責任(危険責任)の規定は,アメリカの第3次不法行為法リステイトメント20条とほぼ同内容となっているが,それがなぜPETLにおいて採用されたのかということは説明されておらず,比較法的な影響関係についても,ドイツ法だけを見ていたのでは明らかにしえない点が残されている。 以上のような問題があることから,本研究課題において扱ったテーマについては,ドイツ法のみを検討対象として成果を取りまとめるか,あるいは,英米法等の他の法体系をも検討対象に加えた上でより包括的に考察する方向に進むか,なお検討中である。後者の方法による場合は,本研究課題は,現在進行中の研究課題(JSPS科研費20K01360)に承継される。
|