研究課題/領域番号 |
17K03446
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
金 炳学 福島大学, 行政政策学類, 准教授 (40350417)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 間接強制 / 民事執行法 / 債権の実効性確保 / 民事手続法 / 韓国法 / ドイツ法 / フランス法 / 諫早湾事例 |
研究実績の概要 |
当該年度においては、まず、間接強制制度に関する法継受過程について研究を行った。とりわけ、ドイツ法ならびにフランス法を継受した日本法が、韓国法へと引き継がれる中、その歴史的、理論的変遷過程について検討を行った。その一環として、韓国において公表された最新の論文の和訳について翻訳を行った。当該和訳は、ドイツ法アプローチとフランス法アプローチの二編であり、間接強制をめぐる諸問題のうち、その法的性質をクローズアップし、損害賠償金と制裁金の両性説と固有の制裁金であるとする学説の詳細な紹介を行った。当該翻訳作業によって、韓国法における間接強制金の制裁金構成が有力となっていることが明らかとなった。 次に、日本において、間接強制の効力が問題となっている喫緊の課題として、諫早湾土地改良事業に関わる開門・開門禁止という二つの相反する債務名義に基づく間接強制の可否について論説を公表した。当該論文においては、間接強制は債務者が期待可能な最善の措置を講じているか否かがメルクマールとなることが正当であると論じた。併せて、相反する債務名義の存在が間接強制の阻害事由となるとする比較衡量的考え方は、間接強制「破り」を招来するおそれがあり採用することができない旨、明確に論証した。最後に、相反する債務名義が確定判決となった場合であっても、既判力の本質論における訴訟法説構成および民法実体法の履行不能の議論を前提とする限り間接強制の阻害事由とはならない旨、検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度においては、本研究課題の進捗状況が当初の計画以上に進展していると評価している。 まず、第一に、日本においては、言語上の理由からこれまで紹介されることがなかった日本法と姉妹法にあたる韓国法の最新の理論について紹介・検討することができた点である。とりわけ、法条文上、「損害の賠償」という規定がある韓国民事執行法の解釈においても、ドイツ法アプローチを中心とした両性説と、フランス法アプローチを中心とした固有の制裁金説が、韓国で主張されていることを明らかとした。これは、日本において、近時、有力説となっている制裁金説の再検討に際して、比較法的検証材料を提供するはじめての試みとなり、学術的意義が大きいことを意味する。 第二に、日本において錯綜した時事問題となっている諫早湾土地改良事業について、理論的な側面からの解決アプローチを提示した点である。当該事案は、開門・開門禁止という相反する司法判断によって混迷を極めているが、民事執行法の理論的アプローチから、間接強制は債務者の意思のみにより履行可能な場合には実効可能であり、その例外事由となる阻害事由は、比較衡量的アプローチではなく原則論によって考察すべきである旨、検証を行った。これによって、混迷を極めている諌早湾事例の理論的な考察の整理に、大きな一石を投じることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策については、まず、日本法との姉妹法の関係にある韓国法の比較法研究が挙げられる。言語上または人員上の問題から、両国の民事手続法は、ドイツ法を母法とする姉妹法であるにもかかわらず、長年、比較法の対象として、部分的に行われていたに過ぎない。したがって、本研究においては、日韓の比較民事手続法研究を中心に、今後、検討を進めていきたい。その一例として、日本の財産開示制度に対応する韓国の財産明示制度について、実務運用などを詳細に検討を行いたい。その際、言語上および学術交流上の問題から、韓国の資料の原文が日本に届くまでに、時間がかかるなどの改善点があるが、柔軟に対応していきたい。 つぎに、混迷を極めている諌早湾事例について、民事司法の限界を認識しつつも、理論的側面から、解決の糸口を見出す工夫を凝らしたいと考えている。とりわけ、間接強制の法的性質が制裁金であるとして、その具体的な意味内容については、いまだ明らかとされていない点に鑑み、理論的に「制裁」という強い言葉にどのような意味内容が含まれているのかという点を、母法であるドイツ民事訴訟法との比較法検討から、解釈論の礎を構築したいと考えている。 さらに、法継受過程において、世界的にも稀有なドイツ法を母法とする姉妹法の日韓それぞれの最新の民事手続法の展開について、電子訴訟などを中心に、紹介、検討を加えていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、民法改正を受け、テキスト・基本書の改訂が待たれていた中、民法の新刊の予算の計上を見込んでいたが、発刊時期が、当該年度から遅れて発刊されることとなったため、その分の予算を計画的に次年度に繰り越すこととした。
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