本年度は、第1に、質権の実行過程を中心に、明治初期の大審院判例において江戸時代からの慣行や明治期の布告・布達がいかなる効力を有するものとして扱われていたのかについての研究、第2に、所有権留保と集合動産譲渡担保の優劣に関する最高裁判例が出されたことを契機に同判例の評釈という形で、所有権留保における留保所有権の内実に関する研究、第3に、先取特権制度の日仏比較を行った。 第1に関しては、明治前期の大審院判決を分析した結果、質権の目的は田畑が多く、紛争当事者は質入主と質取主であり、土地受戻の可否が争われることが多く、地券名義に加えて質取主地券名義を質入主が数年間にわたり放置した事実があって初めて流地の成立を認めることが明らかとなった。このように受戻が広く認められ流地・糶売が認められ難いのは、質権が換価を通じた債権回収手段としてではなく債務者への心理的圧力を通じた弁済促進効を有するものと位置づけられたことを意味する。従前、明治初期の大審院判例の分析は従来十分にはなされておらず、江戸時代からの慣行が根強く残存する中で近代法制定以前に具体的な紛争の処理が裁判所によってどのようになされていたのかを明らかにしたことの意義は大きいと考えられる。 第2に関しては、所有権留保売主の有する権限がいかなる内容のものでありそれがどの時点でどのように変容するのかという点に着目しつつ、留保買主の倒産手続における留保売主による別除権行使の要件と連動させながら、譲渡担保権の対象について検討した。所有権留保の法的構成と別除権行使要件とを直結させないという意味で従来の学説に一石を投じるものである。 第3に関し、日仏の先取特権の種類に類似性が見られること、しかしフランスでは労働関係を中心に新種の先取特権が民法典に導入されており、基本法としての民法典の位置づけの差異が示唆された。
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