研究課題/領域番号 |
17K03449
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石川 博康 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (90323625)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 契約法 / 典型契約論 |
研究実績の概要 |
本年度における研究の実施状況としては、まず、イタリアのカウザ論の展開に関する検討に着手した。特に、2017年7月までオックスフォード大学にて在外研究を行う機会を得て、イタリア民法典の起草過程における各種の資料などについて検討を実施することができたことは、大変有益であった。また、現地では、ローマ法におけるnatura contractusの理論や、中世ローマ法学における本質的要素(substantialia)・本性的要素(naturalia)・偶有的要素(accidentalia)の三分法について、研究の実施および現地の研究者との議論を行うことができた。なお、イタリア民法典の起草に際してBettiの典型的・抽象的カウザ論がいかなる影響を及ぼしたのかなど、イタリアのカウザ論に関する具体的課題についてはなお踏み込んだ検討が必要であり、これらの点については次年度以降も引き続き検討を行う予定である。 また、2017年6月の民法改正により日本の債権法改正が実現したことを受け、カウザ論と密接に関係する典型契約論や典型契約冒頭規定などに関する検討に着手した。まず、その成果の一部として、要物性の要請の意義や委任における本質的要素に関する検討を含む「債権法改正法をめぐる理論的諸問題」と題する論文を、司法研修所論集において公表した。また、日本の民法典の起草過程および債権法改正後の新規定における典型契約冒頭規定の意義に関する検討も実施しており、その成果については、「典型契約規定の意義―典型契約冒頭規定を中心として―」と題する論文として、2018年中に公表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イタリア民法典の起草過程におけるカウザ論およびそれに大きな影響を与えたBettiの典型的・抽象的カウザ論についての検討に関しては、未だ検討すべき点も多く残されてはいるものの、概ね予定通りに進捗している。また、本年度中に日本の民法改正が実現したことを受け、カウザ論と密接に関係する「契約における本質的要素」に関する研究の一環として、典型契約冒頭規定に関する検討を実施した。この点に関しては、当初の予定ではイタリアにおけるカウザ論に関する検討をある程度進めた上で、その比較法的知見を踏まえた検討として日本法の分析を行う予定であったが、債権法改正をめぐる論点に関する理論的分析として、現行民法典の起草過程における議論を踏まえた検討を本年度において実施した。以上のように、2017年の債権法改正に伴い、研究の実施順序に関して若干の変更は生じているものの、全体としては順調に研究が進行しているものと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の進め方に関しては、引き続きイタリアの民法典が起草された20世紀半ばの時期におけるカウザ論についての研究を端緒として、カウザ論に関する総合的検討へと進んでいくことになる。もっとも、本年度において実際に実施したように、債権法改正の成立を受けて、日本における典型契約制度・典型契約論に関する検討についても、やや予定を早めて検討を行っているところであり、その成果に関しては今後も随時公表していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年7月末まで英国にて在外研究中であり、科研費の予算執行については各種手続きがより容易となる日本への帰国後に本格的に行うように調整をしたため、最終的に予算の執行額が当初の予定よりも低い額に抑えられることとなった。在外研究中のために予算の執行を控えた分については、その間に購入を控えた図書等を次年度以降の予算執行の中で処理していくなどの形で、当初予定した予算執行水準へと復帰することを予定している。
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