研究課題/領域番号 |
17K03449
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石川 博康 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (90323625)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 契約法 |
研究実績の概要 |
本年度における研究の実施状況としては、まず、日本における明治民法の起草過程および債権法改正後の新規定における典型契約冒頭規定の意義について検討を実施し、その成果を「典型契約規定の意義―典型契約冒頭規定を中心として」と題する論文として公表した。また、契約における合意をその外側から枠付ける制度としての信義則につき、2018年9月15日開催の第8回東アジア民事法学国際シンポジウム(於:台湾中正大学)にて、「日本における信義則論の現況」と題する報告を行うとともに、シンポジウム小部会(テーマ:「信義則」)のジェネラル・リポーターとして参加各国の報告内容に関する総括報告を行った。その成果として、韓国民事法学会刊行の学会誌『民事法学』に、日・中・韓の各国語にて、「日本における信義則論の現況」と題する論文を掲載した。 比較法的研究としては、昨年度から引き続きイタリアのカウザ論についての検討を実施した。そこでは、脱法行為(frode alla legge)に関するイタリア民法1344条の規定をめぐる学説の展開について、立ち入った検討を行った。イタリア民法1344条は、直接の法律違反(contra legem)とは別個の枠組みとして脱法行為(fraus legis)について取り扱うローマ法(パウルス文とウルピアヌス文)に由来して、強行法規違反(イタリア民法1343条)とは区別してカウザの違法事由の一つとして脱法行為について規定している。この脱法行為に関する取扱いをめぐる議論についての検討を踏まえることによって、イタリアのカウザ論に関する分析はより深みと精緻さを増すものと考えられ、この点については次年度以降も引き続き検討を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本法の分析に関し、典型契約冒頭規定をめぐる諸問題についての検討を行い、それらに関する一定の見通しを論文の形にまで仕上げることができたことは、本研究課題に関する進捗が順調に進展していることについての一つの裏付けと考えることができる。また、イタリアのカウザ論に関しては、脱法行為論との関係をも含めてさらに視野を広げた検討を行う必要性が出てきており、この点では当初予定していたよりも質的にも量的にもより多くの作業が必要となる見通しである。この点については、フランス法などその他の比較法的検討に関する作業と相互に調整することによって、全体としての研究の進捗には大きな影響を及ぼさずに済むものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策については、比較法としてはよりイタリア法に焦点を絞った検討を実施するとともに、日本法に関しては、典型契約冒頭規定に関する分析に続いて、契約締結における方式としての書面の意義についての分析を行うことを予定している。典型契約冒頭規定に関する論文を執筆した過程において、契約の拘束力を合意の外側から支えるための構造としての方式のあり方についてより理論的な分析を行う必要性を強く感じたため、それを踏まえてこの問題に関する検討へと進んでいきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年7月までの英国での在外研究期間において、科研費の予算執行が当初の予定よりも低い額に抑えざるを得なかった予算分について、本年度において当該年度の当初予定額よりもより多くの予算執行を行うことによって調整を行ったものの、なお当初予定した予算執行状況までは若干の余剰額を残している状況である。その残額分については、本年度の予算執行の中で、図書の購入費などとして使用する予定であり、次年度までには当初予定した予算執行状況に復帰する見込みである。
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