研究課題/領域番号 |
17K03449
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石川 博康 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (90323625)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 民法 / 契約法 |
研究実績の概要 |
本年度における研究実績としては、2020年度から2021年度に延期の上でオンラインで開催されることとなった日本私法学会シンポジウム「転換期の民法・消費者法」における報告論文として、民法・消費者法の領域における契約の方式や書面の機能について分析した「各種契約の方式要件の変容と消費者法における書面の意義」の執筆を完了した。本論文については、2021年中に刊行予定の「消費者法研究」第9号に掲載され、またシンポジウムの予稿となるその改訂稿が雑誌「NBL」に掲載される予定である。 以上の論文の準備作業と関連して、本年度は、契約における方式および書面の意義について、比較法的分析を含めた重点的な研究を行った。契約の拘束力を支えるためまたは制約するための法的枠組みとして、カウザやコーズの法理と契約における方式とは、機能上密接に関連するものであり、方式は本課題にとっても極めて重要な問題として位置付けられる。もっとも、方式に関する以上の論文において具体的に論じたように、現代における契約の方式は、契約の拘束力を積極的に支えるものではなく、一定の目的達成のために付加的・外在的に契約の拘束力を制約するものとして特徴付けられるという点で、カウザやコーズの法理とは異なった特質を有している。以上のような分析をも踏まえつつ、イタリアのカウザ論に関する比較法的研究を、本年度においても引き続き実施した。 また、COVID-19の大流行をめぐる状況を踏まえ、パンデミックに際して契約が受ける影響とそれに対する法的救済のあり方について検討した論文「パンデミックによる事情変更と契約の改訂」を執筆し、雑誌「ジュリスト」および「社会科学研究」に掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨今のCOVID-19をめぐる社会情勢により、海外に渡航しての研究作業などについては実施困難であったが、文献調査に関する作業に注力することにより、研究課題の進捗については大きな支障は生じていない。また、契約の方式や書面の機能について分析した論文も、本年度に執筆を完了し、2021年度の日本私法学会シンポジウムにて報告を行う予定となっている。海外への渡航が困難となっているなど、研究の進め方については一定の軌道修正を余儀なくされている部分はあるものの、本課題に関する研究としては、その研究成果の公表を含め、概ね順調に進展しているものと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度が本課題に関する最終年度となるため、本年度はこれまでの研究のとりまとめに向けた作業を進めることとする。具体的には、契約における方式をめぐる問題や、イタリアにおけるカウザ論に関する問題などにつき、文献調査を中心とした検討作業を引き続き行っていくことになる。研究成果の公表については、海外への渡航は制限されているため、国内における研究会や学会での報告の機会を活用しつつ、それを踏まえて論文の公表を進めていくこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年度に行った在外研究の期間における科研費の予算執行が一時滞っていた関係で、それ以降の年度においても予算執行に残額が生じている状況がなお続いているほか、COVID-19の流行による影響から海外への渡航が困難となり、海外出張を実施することができなくなっているため、予算の執行に関し残額が生じている。2021年度においてどのような活動が実施できるのかについても、COVID-19の流行による影響を大きく受けることになるとは思われるものの、海外から資料を取り寄せることにより注力しつつ、研究方針の修正に合わせた予算の執行を行っていくこととする。具体的には、図書費への支出を増やしていく中で、予算の残額も適宜執行されていくものと予定している。
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