本年度における研究実績としては、まず、2021年10月10日開催の第84回日本私法学会大会シンポジウム「転換期の民法・消費者法」において、「各種契約の方式要件の変容と消費者法における書面の意義」と題する報告を担当し、質疑応答を行った。それに先立ち、報告のための予稿論文(「各種契約の方式要件の変容と消費者法における書面の意義」)をNBLおよび消費者法研究に掲載した。 以上の活動と関連して、本年度においては、契約の拘束力を支えるためまたは制約するための法的枠組みとして、契約における方式や書面の機能について昨年度に続いて検討を実施した。契約における方式自由の原則が確立されている現代の法制度の下では、方式の具備が法律上求められる場合でも、方式それ自体が契約の拘束力の源泉とされるわけではない。その意味で、現代の法における方式具備の要請は、契約の成立要件に関する場合も含め、本来的には契約の拘束力を支えるために必要とはされない要素を、何らかの目的において法律によって合意の外側から付加するものとして理解される。どのような内容の方式要件がいかなる場合において課されるべきかは、個々の場面において方式要件を通じて追求される政策的目的と密接に関連し、そのような観点からの方式要件の横断的整理と体系化を行うことが、今後の課題となってくる。 契約における方式をめぐる以上のような研究成果を、イタリアにおけるカウザ論の研究などとも関連付けつつ、契約の拘束力を支えるためまたは制約するための合意外在的な法的枠組みのあり方についての方向性を示すことは、本研究課題の最終課題として位置付けられるべきことであるが、この点についてはなお検討作業の継続が必要である。本課題の研究期間の終了後も、以上の点に関する作業を継続するとともに、その成果の早期の公表を目指していきたい。
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