研究課題/領域番号 |
17K03450
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
杉山 悦子 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (20313059)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 国際倒産 / 零細企業の倒産 / 債権回収 |
研究実績の概要 |
2019年度は、イタリアの国際倒産の実務家と共同で、日本における国際倒産手続の現状と課題、および、近時国際連合国際商取引法委員会(UNCITRAL)で国際的に問題となっている零細企業のための簡素化された手続の現状と課題について紹介し、国際的な倒産において克服すべき課題について発信を行った。前者については、日本が採用している外国倒産承認手続と国際倒産モデル法の相違点を示した上で、件数としては多くないものの、日本国内で外国倒産手続の承認援助が問題となった事例を紹介し、そこで明らかになった課題を紹介した。特に、倒産手続の承認援助や倒産手続に関連する判決の承認執行を拒絶するための要件である「公序」の意味を明確化する必要性を説くとともに、多国籍のグループ企業の倒産手続において、外国裁判所と国内裁判所との協力を推進していくこと、および、UNCITRALでは検討が及ばなかった実体的併合の問題に取り組むことが、日本における喫緊の課題であることを明示した。 後者の零細企業のための簡素な倒産手続についての国際的な立法ガイドの作成過程にも、UNCITRALで開催される非公式会合に参加するなどして、国内手続との平仄のあう国際的な枠組みの作成に貢献するとともに、日本で検討すべき課題を検討した。 加えて、EU諸国におけるグループ企業の国際倒産手続における独自の取組みを参考に、日本での外国倒産承認援助手続で留意すべき点などについて実務家の方と意見交換を行った。さらに、グループ企業の国際倒産手続と倒産手続に関連するモデル法と従来の国際倒産モデル法の関係や、債権回収方法について、UNCITRALでの検討状況を把握したり、他国の対応の調査を実施し、日本の国内法制との調和のとり方について検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
UNCITRALで新たに作成されたグループ企業の国際倒産に関するモデル法と倒産手続に関する判決の承認執行に関するモデル法の関係について、事務局での検討がやや遅れており、その議論を追跡する作業が当初の予定より遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
UNCITRALの事務局における議論を把握したり、UNCITRALの非公式会合に参加するなどして、複数のモデル法の関係を明確にする作業を進め、国内の既存の法律について改正の必要があるか、また、解釈論を変更する必要があるのかという点について検討を行う。さらに、米国やEU諸国の近年の国際倒産の状況や、UNCITRALの新しいモデル法に対する対処方法についての調査を引き続き行い、その分析結果を参考にしつつ、国内でとるべき措置について検討を行い、適宜公表を行う。 このような研究を遂行する上で、諸外国がまだ新しいモデル法への対応策を示していないという課題が生ずる可能性がある。その場合には、外国の実務家や研究者に国内での立法の動きについて問い合わせるなどして、将来の動向を予測するように努める。 また、本研究の研究期間中にUNCITRALで検討が始まった、中小零細企業の倒産法制のあるべき姿についても、UNCITRALの研究会に参加して、諸外国の研究者と意見交換を行いながら、検討状況を把握するとともに、日本国内の法制との比較検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は、諸外国の国際倒産法制をめぐる問題について調査を続けつつ、研究成果の報告に向けた準備を行い、国内外の研究会に参加することで、意見交換を行う予定であった。しかしながら、UNCITRALの3つのモデル法に関係について、事務局での議論が引き続き行われることとなったため、その状況の調査を終えるために当初の予定より時間を要したため、調査や意見交換に必要な経費が余った。 2020年度は、特にUNCITRALの3つのモデル法の関係について調査をするため、さらには国内外の研究者と意見交換をするために、書籍等の物品購入費、旅費、学会参加費に使用する予定である。
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