研究課題/領域番号 |
17K03452
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
芳賀 良 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (00263757)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 緊急差止命令 / 不公正取引 / HFT / AI / 付随的救済 / 金融商品取引法 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、(1)AIを含むアルゴリズム取引と緊急差止命令との関係性、(2)緊急差止命令の付随的救済について、比較法の視点からアメリカ法の判例と学説の分析を行った。 上記(1)については、まず、①HFTと相場操縦規制という観点から、不公正取引に対する緊急差止命令発令の前提となる相場操縦の成立要件を検討した。AIを含む修正型アルゴリズムの場合には、主観的要件の充足が困難となる可能性が明らかとなった。次に、②アルゴリズムと証券取引規制という観点から、高速取引業者の登録制では捕捉できないアルゴリズムによる不公正取引について、緊急差止命令制度が適用される余地を指摘した。そして、③AIの構造を概観した後、不公正取引の例として馴合取引の成立要件を分析した。いずれも、機械化された不公正取引に対する緊急差止命令の発令要件と緊急差止命令自体の限界を探る研究である。 上記(2)については、将来の違反行為発生を抑止するという観点から、緊急差止命令のみでは対応できない類型として、AIによる相場操縦を分析対象として、その抑止方法を研究した。具体的には、AIを利用した相場操縦における付随的救済として立法化すべき事項は、①AIに対する一時的な隔離を可能とする隔離命令、②AI利用者の法令遵守状況の監視を任務とする監視者の任命であることが明らかとなった。 これらの研究成果は、雑誌論文において公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に記載した平成30年度の研究計画に概ね沿った研究成果が得られた。また、HFT(高頻度取引)という現代的な視点から、AIを含むアルゴリズム取引による不公正取引に対応した緊急差止命令や付随的救済についても研究範囲を拡張した(この点は、研究計画の変更である)。なお、①差止命令の既判力の問題は、昨年度分析した緊急差止命令の取消しと変更の視点から分析したこと、②昨年度の実施状況報告書で指摘した通り、上記①以外については、差止命令の既判力一般を論じても、日本法に十分な示唆を得られないことが、本年度における付随的救済の研究の過程で明らかになったことから、差止命令の既判力を固有のテーマとはしなかった(この点も研究計画の変更である)。
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今後の研究の推進方策 |
申請書に記載した平成31年度の研究計画の通り、まず、アメリカ証券取引委員会による排除命令の分析を行う。この分析により、差止命令の発令要件と排除命令の発令要件の差異を明らかにする。その後、一昨年度から開始した本研究をまとめることとする。
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