研究課題/領域番号 |
17K03452
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
芳賀 良 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (00263757)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 緊急差止命令 / 付随的救済 / HFT |
研究実績の概要 |
平成31年度(2019年度)は、当初の予定通り、アメリカ証券取引委員会による排除命令の分析を行った。この分析により、排除命令は、緊急差止命令と異なりにおける不適切な付随的救済がないため、将来の違反行使再発の可能性について、「ある程度の危険」の証明で足りることが判明した。また、アメリカ法の分析により、排除命令と緊急差止命令との法的効果の差異が近接しているので、証明要件の緩和には慎重でなければならないことも示唆された。また、市場構造の在り方を分析するマーケット・マイクロストラクチャーという視座から、緊急差止命令の対象行為が相場操縦である場合についても研究した。この検討により、テスト注文のみを行う場合であっても、違法な変動取引を行う相当な蓋然性があるから、テスト注文を行った者も、法令違反行為を行おうとする者に該当することを明らかにした。また、テスト注文を行うアルゴリズムの分析が実務上の鍵になることも指摘した。 また上記の研究とは別に、緊急差止命令発令の考慮要因を分析する基礎として、弁護士・依頼者間の通信秘密保護についても検討した。課徴金減算措置利用のため、社内調査の実施や弁護士への相談等という事実は、法令違反行為再発の蓋然性を低減させる要因である。弁護士への相談等に係る通信内容の秘密保護は、上記蓋然性の低減を促進することになる。この基礎的検討は、緊急差止命令の発令要件の視点から、社内調査と通信内容の秘密保護の問題を分析する端緒となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度まで、母法のアメリカ法を参考に緊急差止命令の規範的な分析を行ってきた。アメリカ法において、緊急差止命令に類似する制度である排除命令の研究まで行うなど予定通りの成果が得られた。 他方、従来の研究は緊急差止命令を発する規制主体の側からの分析であったところ、本研究を進めるうちに、緊急差止命令の受命者から法的相談を受けた法曹(顧問弁護士等)が法曹倫理との関係で困難な法的問題に直面することが分かった。このため、法曹倫理の視点から緊急差止命令を受ける側の行動指針を分析し、弁護士実務に対する影響を明らかにすることが、本研究をまとめる上で有益と考えた。このような理由から研究期間の延長を申請し、承認された。
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今後の研究の推進方策 |
緊急差止命令の受命者から法的相談を受けた法曹(顧問弁護士等)が法曹倫理との関係で困難な法的問題(弁護士と法人である依頼者との通信秘密の保護等)に直面することが分かった。このため、法曹倫理の視点から緊急差止命令を受ける側の行動指針を検討することとする。そして、緊急差止命令を巡る弁護士実務に対する影響を明らかにしたい。
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