研究課題/領域番号 |
17K03454
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
内田 千秋 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (40386529)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | フランス / 専門職 / 公証人 / 士業法人 |
研究実績の概要 |
本研究は、フランスにおける専門職会社(専門職を実施するための会社)に関する研究を行うことを目的としており、交付申請書には、平成29年度は専門職のための持株会社、平成30年度(本年度)は異業種連携の実現、令和元年度は専門職会社の組織選択に関する研究を行う旨を記載した。 本年度は、日本公証法学会において、「フランス公証人制度の近時の展開―公証人会社の検討を中心に」のテーマで報告する機会を得たので、フランスの公証人のための会社(公証人会社)に焦点を当てて研究を実施することとした。学会報告では、公証人会社として選択可能な会社形態を掲げた上で、どの会社形態が好まれているのかについて指摘した。この学会報告は、「フランス公証人制度の近時の展開――公証役場の会社化に関する検討を中心に」のタイトルで学会誌『公証法学』に掲載予定である。 公証人会社としてもともと、専門職民事会社(SCP)および自由業実施会社(SEL)形態が認められていたが、2001年には持株会社である自由業専門職財務参加会社(SPFPL)制度が創設された。2015年の改正では、選択しうる会社形態がさらに増えたほか(SEDC)、異業種連携を実現するための会社(SEP)も導入された。SCP形態の公証人会社が多数であったが、近年はSEL形態も増えてきている。 また、本年度は、本研究と並行して、フランスにおける会社法と成年後見法の交錯問題に取り組み、論文も執筆した(内田千秋「フランスにおける会社法と成年後見制度の関係」実践成年後見76号(2018年)67-76頁、同「成年後見制度と取締役の地位――フランス法の検討から――」早稲田法学94巻3号(2019年)487-528頁)。フランスの公証人は、業務(公証業務・助言業務)上、成年後見法にも関わりが深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、フランスの公証人制度について学会で報告し、学会誌に掲載するための原稿を執筆した。本年度の研究は公証人に焦点を当てるものではあるが、専門職会社の組織選択について検討を行うという点で、交付申請書に記載した翌年度のテーマに関する研究を先取りするものである。また、公証人会社として選択可能な会社形態の中に、持株会社形態(SPFPL)や異業種連を実現するための会社形態(SEP)も含まれるため、本年度は、前年度の研究を深めた上で、交付申請書に記載した本年度のテーマに関する研究も実施することができたといえる。 フランスの公証人は、職株制度の下に置かれている点で独自性を有するが、本年度の研究により、その独自性が公証人における会社選択に大きな影響を及ぼしていることを明らかにすることができた。他の専門職と比較検討し、さらに専門職全体を俯瞰するための大きな足がかりを得ることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、会計監査役のための会社(会計監査役会社)に焦点を当てて、研究を実施することとしたい。2013年に提出した博士学位論文(内田千秋「フランスにおける会計監査役の民事責任」)を本にして出版するため、かねてよりその修正作業を行ってきた。2010年に公表した論文(内田千秋「監査法人における社員構成の多様化と職業の独立性の保護―フランスにおける会計監査役会社制度の検討を中心に―」早稲田法学85巻3号(第1分冊)(2010年)47~82頁)も所収予定であるので、本年度までの研究から得られた知見を加えつつ、2015年以降の専門職会社法の改正を反映する作業を行う。 また、本年度、公証人に関する研究を実施する過程で、同じ法律専門家である弁護士に関する文献や統計も収集することができた。今後は、弁護士においてどのような会社形態が好まれているのかを分析した上で、公証人会社との比較検討を行う予定である。会社形態の選択に関する議論においては、会社法だけでなく、税法および社会保障法の知識が必須であるので、こうした関連法分野の理解を深めたい。さらに、法社会学における専門職(プロフェッション)研究の視点や統計分析を取り入れるなど、新たな研究手法も取り入れてみたいと考えている。 もちろん、専門職のための持株会社(前年度のテーマ)や異業種連携を実現するための会社(本年度のテーマ)が、検討すべき重要なテーマであることに変わりはない。立法資料や解説文献を熟読し、論文の執筆を進めていきたい。
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