2021年度においては、本来、2020年度に予定したドイツにおける流動資産担保の債務者再生局面における実態や法的位置づけなどについての資料収集や現地調査、およびドイツにおける流動資産担保の持つ包括担保性とドイツ倒産法に関わる現地調査を行う予定であった。しかし、2020年度に引き続き、新型コロナウィルス感染症の世界的な流行によって、ドイツへの渡航が事実上不可能となったため、実施できなかった。このため実現可能な範囲に調査範囲を縮小して、主として文献調査の方法によって考察を進めるという方針に基づき、ドイツにおける流動資産担保の包括担保性についての検討に焦点を絞って、考察を加えることにした。これは、2019年度のドイツにおける海外調査とその後の文献調査によって得られた「流動資産担保の設定局面と実行局面における担保権の一種の『すみ分け』が有体物概念に依拠するのではないか」という示唆を踏まえて、債務者再生局面における流動資産担保の効力(法的位置づけ)について、流動資産担保が持つ包括担保性が「有体物概念」とどのように関わるのかという観点から分析しようとするものであった。この分析はなお考察の途中であるが、ドイツにおける流動資産担保の包括担保性は、有体物概念を基礎とするいわゆる分析論的な法的構成を採りながらも、その法的な実態として十分に機能しているといえそうであることを一応は確認することができた。 また、わが国においては、流動資産担保の立法化作業がさらに進んでおり、2021年度における私法学会シンポジウムにおいて、包括担保法制のあり方を含む議論が展開されている。この議論においては、包括担保法制として流動資産担保を含む担保権をどのように法的構成するのかが焦点となっていたが、「すみ分け」という観点からの整理はこの議論においても有効ではないかという示唆を得ることができた。
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