研究課題/領域番号 |
17K03459
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
青竹 美佳 大阪大学, 高等司法研究科, 准教授 (50380142)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 相続法 / 相続法改正 / 配偶者相続 / 遺留分 / 配偶者居住権 / ドイツ相続法 / 比較相続法 / 夫婦財産制 |
研究実績の概要 |
マックスプランク国際私法・外国私法研究所を拠点に、家族が多様化する現代の日本において相続法制度がどのようにあるべきかを、主に立法論の観点から検討した。 同研究所で出版されている法学雑誌“Zeitschrift fuer Japanisches Recht”にて、日本の相続法改正の中間試案を紹介し、上述の点について分析を加える論文、Mika Aotake/Gabriele Koziol”Ueberberblick ueber den Zwischenentwurf von 2016 zur Reform des Erbrechts in Japan”を共著にて発表した。 また、日本家族(社会と法)学会シンポジウム「家族・社会の変容と相続制度」(2017年11月4日、神戸大学)において、比較法・ドイツを担当し、「ドイツ相続法における夫婦の財産関係の清算について」のテーマのもとで研究報告をした。同報告では、ドイツの配偶者相続権に関する議論を紹介し、日本の相続法制度における配偶者相続権の問題を分析した。 その他、国際調停センター(Internationales Mediationszentrum ueber Familienkonflikte und Kindesentfuehrung)の開催する研究会(MiKK Beiratssitzung、2018年1月25日駐ベルリン台湾領事館)にて、「現代の日本における家族法と家族像」(Family Law and Family Patterns in Contemporary Japan)のテーマで、夫婦の経済格差に関するデータを紹介し、婚姻解消時に生ずる家族法上の問題を報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多様化する家族に対応する相続制度を構築するための動きを、現在進められている日本における相続法改正の議論を分析することにより検討した。とりわけ、2つの観点から相続法改正の議論を分析した。 第1に、相続法改正の法律案における「相続人以外の者による貢献を考慮するための方策」として設けられている新規定に着目し、特別寄与料の請求権者の範囲についての議論および中間試案、要綱案のたたき台、法律案における規定の移り変わりについて分析を加えた。貢献が考慮される者の範囲として、2親等内の親族とする案と範囲に制限を設けないこととする案の両案を含む中間試案を出発点として、範囲を適切に限定するための議論と範囲を限定することの必要性について展開された議論から、相続人以外の者の貢献を相続法上考慮する際に無視しえないいくつかの重要な点を析出した。 第2に、配偶者の相続権を、多様な夫婦のスタイルに合わせる試みの1つと評価して、配偶者の相続権についての相続法改正の議論を分析した。中間試案で取り上げられた配偶者の相続分の引上げについての案について、法律案には取り入れられなかったとしても、多様化する家族に対応する相続制度を構築するための動きとして検討を加えた。各配偶者が遺産の維持・増加に実際になした貢献をもとに配偶者の相続分を引き上げる方針は、中間試案においても取り上げられなかったが、ドイツ相続法における配偶者相続分の規定についての議論をもとに、実際の貢献を評価することの必要性について検討を加えた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、多様な家族に対応する相続法のあるべき方向性を、ヨーロッパの相続法および相続法改正の内容を分析することにより研究する。比較の対象として第1に、これまで研究の対象としてきたドイツ相続法における配偶者の相続分および居住権に関する議論を継続して分析する。第2に、2015年に改正されたオーストリア相続法において、多様な家族に対応する相続法が実現されているか否か、実現されているとすればどのような方法によってなされているかを検討する。第3に、現在議論が進行しているスイスにおける相続法改正の動向を調査し、上述の観点からこれを分析する。 相続法のあるべき方向性を検討するには、他国の相続法改正がどのような方向性を示しているかを分析するのが有益である。このような観点から、相続法改正が議論されている複数の国における議論を比較の対象とする方策をとっている。すでに、フランス、イギリス、ドイツの相続法については概要がおおむね紹介され分析されている。オーストリア相続法改正についても、紹介する論考があるが、多様な家族に対応する相続法という観点から分析されているというわけではないので、本研究で取り上げる意義があると考えている。また、スイスにおける相続法改正の動向については、現在進行中であり、これを調査し検討する意義が大きいといえる。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算に計上していた必要な書籍を在外研修先であるハンブルク市内の図書館にて長期で借りることができたため。次年度にはハンブルク市内の図書館にて入手することが困難であるオーストリア法、スイス法の文献を購入する。とくにオーストリアの2015年相続法改正に関する文献およびスイスの相続法改正の議論に関する議事録などを購入する計画である。
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