研究課題/領域番号 |
17K03459
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
青竹 美佳 大阪大学, 高等司法研究科, 准教授 (50380142)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 2018年相続法改正 / 遺留分制度 / ドイツ相続法 / ドイツ遺留分制度 / 相続法 / 遺留分法 / 家族の多様化と相続法 |
研究実績の概要 |
2018年の相続法改正において家族の多様化にどのような対応が図られているかを検討した。とりわけ、同法改正によって内容が大きく変化した遺留分制度に着目し、主にドイツ遺留分制度と比較検討しながら、改正相続法における遺留分制度のあり方についての一定の研究成果をまとめ、その成果を単著『遺留分制度の機能と基礎原理』(法律文化社、2021年2月)において公表した。そこでは、遺留分制度は、法律上の遺留分権利者に対して遺産に対する一定の持分として画一的に確保されるものではなく、遺留分によって制限される被相続人の処分の自由やそれによって図られる事業承継や信託などの利益の保護を考慮しつつ、遺留分権利者にとっての遺留分による生活保障や潜在的持分の取戻しなどの遺留分の機能に応じて、相対的に内容が定められるべき制度へと変化していくものであるとの立場を提示している。 また、2018年の相続法改正においては相続における相続債務の扱いについて規定が新設され(相続分指定の債権者への効力についての902条の2)、2017年の債権法改正においては可分債権について新たな規律が設けられたことに着目し、遺産分割における相続債務(可分債務)の扱いについての解釈論上の問題について分析を加えた。家族の多様化に伴って、家族間での遺産分割も多様化していることから、それぞれの遺産分割における相続債務の扱いについて当事者の意思を尊重しながら民法の趣旨に反しない解釈を検討した。この問題については、最高裁判所令和元年8月27日判決(民集73巻3号374頁)の評釈として一定の見解を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
相続法における家族の多様化への対応について、主に2018年相続法改正後の遺留分制度に着目して研究を進め、一定の成果を単著『遺留分制度の機能と基礎原理』(法律文化社、2021年2月)に公表することができた。 もっとも、国際学会での口頭報告を実現することはできなかった。2018年度の相続法改正の内容を紹介して分析を加えた研究の成果を、当該年度に開催される予定であったポーランド・トルンでの家族制度学会にて報告する計画は、コロナウイルス対策により同学会の次年度への延期が決定したため、実現することができなかった。同学会はオンラインで実施されることもなく、発表の場を確保することができなかった。発表が決定していたテーマは、"Reform of the Succession Law for the aging Society in Japan" であり、日本の新しい相続法が、高齢社会にどのように対応しているかという観点から、主に配偶者居住権、特別の寄与、遺留分、預金債権、遺言要件についての新しい規定の概要を紹介し、それぞれに分析を加えている。
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今後の研究の推進方策 |
多様化する家族に着目し、相続法において家族の変化にどのように対応するべきかについて引き続き研究を進める。昨今の親族法改正(嫡出推定制度、離婚後の子の養育についての制度、選択的夫婦別氏・同性婚に関する婚姻制度)についての議論の動向に鑑みて、今後は、親族法改正の議論に着目して研究を進める。これらの問題について、先に改正を経験しているドイツ法における議論状況を参考にして検討を進める。 国際学会での成果の報告は、コロナ感染拡大の状況について見通すことができず、学会の開催が確実ではないため、今後は学会での報告ではなく欧文の論文を国際雑誌への投稿する準備を進める計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に口頭発表者として参加を予定していたポーランド・トルンでの家族制度学会が、コロナウィルス感染拡大防止のために次年度に延期となったため、予算に計上していた海外出張旅費が未使用のままとなった。翌年度に国際学会での口頭発表をすることができるかどうかは、感染拡大の状況を見通すことができないため予想できない状況である。したがって、海外出張が可能となった場合の国際学会での口頭発表のための費用として当該年度の未使用分を使用することを予定しつつ、国外での口頭発表が困難となった場合については、国際共同研究の形で海外の法学雑誌等に公表する論文を作成するために必要な国内外の書籍の購入、欧文翻訳の校閲のための費用として有効に使用する予定である。
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