弁護士賠償責任保険における免責事由に関する近時の学説、裁判例の整理検討を行った。また保険事故を被保険者に対する損害賠償請求がなされたときとする、請求事故方式における保険事故の通知義務との関係において、近時の約款改定による、被保険者の損害賠償請求の原因となった被保険者の賠償義務の原因となった行為について、それが原因となり将来的に損害賠償請求を受けるであろうことを認識したときに、保険者に対して通知義務を課すことを約款条項で定めている点の趣旨や、その条項の妥当性について研究を進めた。 弁護士賠償責任保険では、普通保険約款で故意免責が設けられており、弁護士特約では、いわゆる認識ある過失免責条項が設けられている点を踏まえて、依頼者保護に関しては、信用保険等、別の保険制度の利用を考える必要性を示した。 D&O保険における法令違反免責条項の適用が争点とされた事案である東京高判令和2年12月17日金判1628号12頁を題材に、法令違反免責条項でいう「認識していたと判断できる合理的な理由がある場合を含む」の解釈に関して、専門職業人賠償責任保険では国家試験等の資格要件や当該有資格者等から構成される審査会での有無責の判断等を実施しているが、D&O保険の被保険者である役員には専門的な資格要件は求められておらず、業種や会社の規模等千差万別な事情もあることから、より個別の事情を踏まえて、括弧書きの適用を解釈しなければならないことになるであろう。従って、弁護士賠償責任保険等の専門職業人賠償責任保険での従前の裁判例とは異なる解釈基準になる点を示した。
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