不利益変更禁止原則について日本法・ドイツ法・ベトナム法を対照した結果、以下の知見を得た(ドイツ法は日本法の母方ということで参照した。ベトナム法は、日本の法整備支援を受けていること、社会主義の土壌の上に民事訴訟法が制定されており、私的自治の原則が民事訴訟法上どこまで貫徹されるかを分析する興味深い題材となり得ることから参照した)。 ①不利益変更禁止原則については、日本民事訴訟法上上告審に関して320条にも規定があり、その沿革もドイツ法にまでさかのぼって考察する必要があること、②これまでに得られた知見を客観的予備的併合の主位的請求棄却、予備的請求認容判決に対して被告のみが控訴した場合の取り扱いにどう当てはめるかについて再検討をする必要があること、③ドイツ法上、移審効については、上訴の対象となった請求の範囲についてのみ生じると理解されおり、そのことが不利益変更禁止原則との関係で持つ意味について考察を深める必要があること、④社会主義の土壌の上に市場経済を導入し、日本等の法整備支援を受けつつ新民事訴訟法を2004年に整備したベトナムにおいては、訴えにおける申立事項の拘束力の原則は採用されつつ、上訴審における不利益変更禁止原則は採用されておらず、さらには検察官による控訴権限まで規定されていること、このことが、不利益変更禁止原則を(被上訴人による)申立事項の拘束力の現れとして理解するべきと考える近時の日本の有力説に対して有するインプリケーションをどのように考えるか、整理する必要があること。
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