行為者が生前の行為によって、自己の死亡時以後における財産的利益の帰属について定めるという点で遺言と共通する機能を有する「遺言代替アレンジメント」(遺言代用信託、生命保険、死因贈与など)を介して広義の「遺産」承継が行われる場合における目的財産の帰属に関する、関係当事者(行為者、その推定相続人、行為者の債権者、行為によって利益を受ける相手方[受益者])間の利益の適切な衡量のあり方と、それをふまえた民事法上の規律のあり方を明らかにすることを目的として研究を行った。Aが自己所有の甲土地を当初信託財産とし、Dを受託者として信託をする遺言をし、Aが死亡すると、遺言の効力が生じ(民法985条1項)、その遺言に基づく遺言信託の効力が生じて(信託法4条2項)、AからDに甲の所有権は移転する。当該遺言信託によってAの債権者Cが害されることがあり得ることから、これを保護する方策を検討する必要性がある。遺贈については、相続債権者の受遺者に対する優先ルールが定められている(2(2)(ⅰ)参照)。遺贈と遺言信託とは、遺言による無償処分である点で共通していることから、相続債権者の優先ルールは、遺言信託にも妥当するものの、当該ルールの限界も等しく妥当することとなるものと考えられる。また、受託者が対抗要件 を備えた遺言信託に対する相続債権者の保護は、対抗要件を備えた受遺者に対する相続債権者の保護と同様に例外的な場面でのみ認められるものと解される 。すなわち、債権者詐害的な遺言信託に対しては、遺贈に対するのと比較して、相続債権者の保護が特段あついという状況にはないものということができる。従って、遺言信託を対象とする詐害信託の取消しが認められる必要性はあるものと考えられる。
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