研究課題/領域番号 |
17K03467
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
上田 竹志 九州大学, 法学研究院, 准教授 (80452803)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 再審事由 / 判決無効 |
研究実績の概要 |
2017年度は、民事裁判の法内在的な正統性に関する基礎理論的研究を行った。その成果は、上田竹志「誤った判決に関する一考察―再審事由との関連から」高田裕成ほか編『高橋宏志先生古稀祝賀論文集 民事訴訟法の理論』(有斐閣、2018年2月公表)にまとめた。 同論文では、民事裁判の正しさの反対形相である、誤った判決の処理問題、再審や判決無効の訴え、別訴における判決無効主張について、再審事由分析を中心に検討を行った。そして、再審ないし判決無効は、①民事訴訟制度が自己反省的に自身の規範的正統性を担保するために必要な再審査、②民事訴訟制度が実践的に自身の社会的正当性を担保するために必要な、不当判決主張への応答、という二つの側面を持っているとの仮説を提示し、19世紀ドイツにおけるサヴィニーの既判力正当化根拠論、ドイツおよび日本における再審事由に関する理論を分析の上、日本において有力説である新堂幸司=高橋宏志の既判力正当化根拠論を批判的に検討した。最後に、再審(および判決無効)は、民事訴訟制度が自律的な制度ないし規範言説である以上、必ず備えなければならない自己防衛機制を担う制度であり、新堂=高橋理論におけるような、ミクロの当事者の納得等を既判力の正当化根拠に求める議論は、そのような自己防衛機制と調和しない当事者救済を導き出すとの結論を確認した。 また、2018年度の研究計画遂行の予備作業として、上田竹志「紛争当事者が真実を語るとはどのようなことか」江口厚仁ほか編『境界線上の法/主体』(ナカニシヤ出版、2018年4月公表)において、予備作業として、ミシェル・フーコーのパレーシア概念を援用しつつ、裁判所の事実認定がいかに当事者に受容され、または拒絶されるかという相互行為の分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、2017年度において民事裁判の規範内在的正統性担保メカニズムの分析を行う予定になっていたところ、当該年度においては、規範内在的正統性担保を超えて、2018年度の研究計画に含まれていた、規範外在的=社会的な正当性担保の分析まで進んだ点で、2017年度の研究実績は、当初の計画以上に進捗していると評価できる。 他方、2017年度の研究計画に含まれていた、ドイツ民事訴訟法580条7号bの判例分析については、思うように進捗できなかった。また、右の点について当初計画していた、ドイツにおける文献収集についても、諸般の事情により、具体的なスケジュールを立てることができず、実現できなかった。その代替として、2017年度にはドイツ民事訴訟法の基本文献(Stein/Jonasコンメンタール等)充実を行った。この点については、2018年度に引き続き研究計画の遂行を続行する。
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今後の研究の推進方策 |
1.2018年度は、ドイツ民事訴訟における原状回復の判例分析を引き続き行う。また、可能な限り、ドイツでの文献収集の機会を設ける(この点が実質上不可能となった場合は、ドイツ国内にある文献の取り寄せ等を、可能な限り日本国内から試みる)。 2.当初の計画通り、ニクラス・ルーマンの社会システム理論を基軸に、各種訴訟類型における判決が、社会的にいかに受容され、また拒絶されるかについての分析を行う。この点、上田竹志「紛争当事者が真実を語るとはどのようなことか」江口厚仁ほか編『境界線上の法/主体』(ナカニシヤ出版、2018年)において、予備作業として、ミシェル・フーコーのパレーシア概念を援用しつつ、裁判所の事実認定がいかに当事者に受容され、または拒絶されるかという相互行為の分析を行った。今年度も引き続き、上記の点について分析を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年度に予定していたドイツにおける文献収集が、諸般の事情により実現できなかったため、代替としてドイツ民事訴訟法の関連書籍を揃え、差額が生じた。 2018年度においては、ドイツにおける文献収集を改めて計画する。
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