研究課題/領域番号 |
17K03467
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
上田 竹志 九州大学, 法学研究院, 教授 (80452803)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 民事裁判の正当性 |
研究実績の概要 |
2018年度は、民事判決の正しさにつき、その社会的機能について、分析を行った。 まず、環境紛争等について資料を収集し、大規模紛争における判決をいかに社会が受容するかにつき、分析を試みたが、大規模紛争における言説分析は困難であり、むしろ法社会学的知見へ強く接近することが明らかとなったため、いったんこの方向性については保留することとした。 次に、比較的紛争規模が小さい、死亡事故紛争における裁判受容の問題につき、具体的ケースを踏まえながら分析を試みた。この分析に際しては、長時間勤務を終えた後の帰宅途中に交通事故死し過労死が問題となった、横浜地裁川崎支部平成30年2月8日決定(和解勧告決定)を素材として、裁判所が、いかに紛争の実質的解決に切り込むことができるか、裁判官の実質的価値判断の発現形式とその権力性の問題について、分析を行った。その結果、裁判所が制度上予定された手続運用を超えて、裁判によって実質的な紛争解決を志向する際に、その判断が当事者を権力的に拘束すると、実質的紛争解決と、裁判官の主観的・恣意的な権力行使との区別を見失わせる結果となるため、慎重であるべきこと、実際の事例においては、むしろ当事者に対する拘束力が弱く、常に不同意や出し抜きの可能性が留保されている裁判こそ、実質的紛争解決のために利用しやすく、また利用される傾向にあるということを明らかにした。この結果は、さしあたり、2018年度中に判例評釈の形で公表した(法学セミナー766号128頁)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度については、ほぼ予定通りに進捗することができたが、ドイツにおける再審事例の分析については、一部遅れが生じた。 2019年度については、民事裁判の社会的正当性につき、当初の予定だった大規模紛争の言説分析については、その方法論の適切さに疑問が生じたため、変更を行ったが、小規模の、いわゆる人格紛争的側面が強い事件について、具体的な裁判例を通じて分析を行うことができたため、当初予定する進捗に相応する成果を出すことができた。 また、2019年度中には、本課題の次につなげるための、裁判正当性と手続動態性との関係について、解釈論および基礎理論の双方で、新たな論点を見出すことができ、筆者の今後の民事訴訟法理論研究の中で、本課題を適切に位置づけるための準備作業を行うことができた。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度は、本課題である裁判正当性の問題について、引き続きドイツ再審事例の分析を継続するほか、当初の研究計画に従い、裁判正当性問題全体について、基礎理論的見地から論考をまとめる予定である。 また、上述の通り、裁判正当性と手続動態性の関係について、次の研究段階に向けて準備作業を進め、これについても、2019年度中に、何らかの形で論考を発表することを予定している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
年度末において、無理に最終調整をしなかったために、1000円以下の残額につき端数が生じた。
|