本年度は、前年度から行ってきた2つの方向での考察を継続した。1つは、民事手続において、個人的利益とは異なる公的(超個人的)契機の存在から、裁判官の職権性が現れる場合を考察対象とするもので、規範的要件・事項における職権主義的ルールの通用に注目するとともに、裁判官の職権の行使の積極化を促す契機とその積極化の限界について、ドイツの文献も参考にしつ検討を行った。その検討の過程で、証拠調べ段階での裁判官の職権性が問題となる証人尋問における職権尋問の採用の当否の議論にも着目する機会を得るとともに、職権尋問を考察対象に含む論説を執筆し、近く公表の予定である。 もう1つの考察方向は、個人を超えた超個人的利益のための訴訟制度(集団的権利保護)に着目するもので、そこでの超個人的利益の保護のメカニズムと手続規律の関係に対する考察を引き続き試みた。ここでは、主として前年度から注目するドイツの近時の集団的権利保護のための民事訴訟制度の動向を、ドイツの文献と、すでにわが国でも公けにされている邦語文献を参考にしつつ概観するとともに、あらためて、集団的権利保護のなかで最も秩序維持の観点か前面に出ている予防的団体訴訟制度の規律を、人事訴訟などの伝統的に超個人的利益に関わる訴訟とも対比させながら考察した。それらの訴訟制度がいずれも超個人的利益の保護を標榜しつつも、片や弁論主義の通用を維持する規律様式、片や職権探知主義を適用する規律様式を選択することが、日独で広く支持されている理由・根拠を検証し、あわせて団体訴訟・人事訴訟の両方の制度の保護対象としての公益や公共的利益、あるいは集団的利益の区別、および前記規律様式との関係についても、ドイツの現在の理論状況を考察することを通じて把握に努めた。
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