最終年度である令和元年度も,平成30年度の研究を継続した。すなわち,第1に,ファイナンス理論からあるべき譲渡制限株式の売買価格の決定の手法を理論的に絞り込むこととし,現在の判例法理がファイナンス理論と整合的に解釈できるか,乖離がどの部分に生じるのかを検討した。第2に,株主の株式買取請求に係る「公正な価格」の決定に関する裁判例および学説の議論状況の分析を行った。こうした作業は,譲渡制限株式の売買価格の決定の在り方に関する検討結果と,株式買取請求に係る「公正な価格」を算定する場合に関する議論とを比較検討することにより,「株式価値評価が問題となる場面ごとに株式価値評価の在り方が変わるとみるべきかどうか」という重要な問題について考察するための準備作業としての意味を有するものである。 さらに令和元年度は,上記の研究を踏まえて,株式価値評価が問題となる場面ごとに株式価値評価の在り方が変わるとみるべきかどうかという問題についての検討を始めた。具体的に取り上げたのは,募集株式の有利発行性を判断する場面である。かかる場面についての検討をする際には,裁判例として現れた具体的事案について,判例集で把握できる範囲内ではあるが,具体的な企業価値評価の手法や手順が判決の結論に影響を与えていないかどうかを検証するよう心がけた。 上記の研究成果は,まだ公表できていないが,令和2年度内に論文の形で公表したいと考えている。
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