研究課題/領域番号 |
17K03481
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
青木 則幸 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (30350416)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 動産債権担保 / 譲渡担保 / ABL / UCC第9編 / 占有型担保 |
研究実績の概要 |
本研究では、アセット・ベースト・レンディングに代表される事業包括担保が行なわれる場合に,ABL貸主に後れる与信者の余剰価値の担保利用方法について,非占有型担保権(集合動産・流動債権譲渡担保等)に後れる占有型担保権の利用の可能性を検証している。本年度は,前年度の研究を受け,米法における占有型担保権の存在形態の検討の継続とその実行方法に関する検討を行った。 前者について。米法における占有型担保権の存在形態のうち,優先順位の調整を行う制度との関係で注目する必要があるのは,動産担保証書等の有価証券を介した占有を伴う担保取引である。有価証券であるゆえに,その担保の差し入れは,金銭に類比した価値の提供としての性質を有する。この意味で,わが国の債権譲渡担保の一種やファクタリングといった取引類型との接近がある。ただし,目的財産じたい無担保の債権でない点で,より流通機構との関連性の強い取引実態が看守される。もっとも,同様の性質をもつものに,米国におけるファクタリングの展開がある。ただし,ファクタリングで想定されているのは,目的財産たる債権が,単価の低い動産の売買等によって生じた債権である場合であり,両者の区別の必要がある。 後者について。米法における担保権の実行方法に関する検討のうち,本年度は,とりわけ私的実行の適正さを維持するメカニズムに関する検討を行った。私的実行においては,担保権者による処分を開始するまえに目的物を担保権者が占有する方法が求められる。また,清算義務は任意規定である。これらのことから,帰属型と処分型の両方のタイプの私的実行がありうるものの,帰属型においても,清算金請求権の担保としての留置的効力や同時履行関係の維持は重視されていない。重視されているのは,私的実行における債務者の協力の前提となる商業上の合理性準則である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は3年間の研究期間の2年目であった。1年目には,主として占有型担保権の取引実態に関する文献の研究を行ったが,2年目はこれを継続するとともに,3月に米国における研究者・実務家に対する聞き取り調査を行い,意見交換を介して,取引実態調査の精度を引き上げることができた。また,検討の進展から,研究当初想定していた,いわば期中における優先関係の調整規定を主眼とする研究のみならず,実行局面における占有の意味にも目を向けることになった。これにより,中小企業等の事業者の資産について,先行する包括担保権者と,後発の流通過程における与信者の与信行動の対比をより明確にできるはずである。以上のように,当初からの調査の進展と新たな課題への接続の両方がみられるので,おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度から調査を続けてきた占有型担保権を利用した事業金融の取引実態やその担保権の法的構造については,引き続き検討を継続する。また,昨年度に展開させた実行局面の研究との接続という視点からとりわけ担保権者による占有が必要とされる取引局面に注目した検討を行う予定である。また,本年度が最終年度であることから,研究成果をとりまとめ,論文として刊行する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度(2017年度)に予定していた米国現地調査を延期し本年度に行ったが,もともと本年度に予定していた米国現地調査(米国大学に所属する研究者の意見聴取)の項目と合わせて行ったため,海外出張費1回分に相当する費用を次年度に使用することにした。配分額から,最終年度にあたる2019年度の海外出張は困難であると考えていたが,この金額を使用して,米国現地調査を実施する予定である。
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