米国の動産債権担保法であるUCC第9編では,対抗要件に相当するパーフェクションの制度の一部に動産や証券の占有を規範とするものがある。担保権の設定者が同一の動産に担保権を設定する一方で担保権者以外の者に売却するといった物権変動の競合のケースで,その売却が,事業の通常の過程における買主に対する売却でない場合に適用されるUCC§9-317(b)である。この場合には,電子化されていない動産担保証券その他の証書と並んで,物品についても,有償取得者が先行する対抗要件未了の担保権の存在を認識せずに目的物の占有を取得する場合に,担保権の設定に優先する旨が規定されている。逆に言うと,先行して占有を取得しても悪意であれば優先できないという限界が規定されている。本研究では,米法の対抗要件制度におけるこの規範の位相を検討した。 申請段階および研究の初期段階においては,この規定を,先行する包括担保権の限界の一環として位相の解明を目指していた。研究の進展とともに明らかになったのは,確かに,現状でそのような機能の指摘があるものの,制度の位相としては,よりマクロ的な視点から,米国の人的財産担保法の対抗要件制度の基本設計に由来するものとして位置づけられるものであることである。すなわち,UCC第9編は,現在では,当事者の主観にかかわらず,登記の先後のみで優劣関係を決する規範を採用している,非占有担保権の競合の事案についても,初期法典においては,先行する物権変動について善意で先に対抗要件を具備した者を優先する「レース・ノーティス」理論に依る法理を採用しており,いくつかの制度が「レース」理論に置き換えられていく中で,敢えて維持されている領域という位置づけである。 UCC第9編の現状を担う前提の理解を塗り替える研究成果であり,今後の日米比較法の基礎となる。
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