研究課題/領域番号 |
17K03482
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
三枝 健治 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (80287929)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 利得の吐き出し |
研究実績の概要 |
本研究は、英米法で認められている「利得の吐き出し」について、その新たな動向を紹介・分析し、我が国におけるその活用可能性を検討しようとするものである。 本年度は、主に文献の収集・分析を通じて、利得の吐き出しを巡る(a)我が国の状況と(b)英米法圏の状況を調査した。まず(a)については、調査の結果、我が国では、現実に生じた損害以上の賠償や損失の返還が認められておらず、特許法、著作権法、信託法に利得を損害と推定する規定が置かれるに止まること、しかし、他方、信託法やプライバシー侵害等の個別の領域で、利得の吐き出しを認めるべきであるとの見解が根強くあることを確認した。この調査の過程で、これらの推定規定を手がかりに、新たな損害論として再構成し、それを不法行為の一般論として展開させようとする動きや、信託法での議論を信託以外の関係にも拡張しようとする動きがあることが分かり、目下、その詳細な分析を進めている。 次に(b)については、調査の結果、英米法圏では、伝統的に知財法や信託法の領域で利得の吐き出しが認められてきたが、その後、イギリスのBlake判決において契約違反の損害として利得の吐き出しが認められたこと、しかし、同判決に対する評価は分かれ、伝統的な領域を超えて利得の吐き出しを認ることに賛否両論があることを確認した。この調査の過程で、利得の吐き出しの根拠と機能を巡って学説上さまざまに議論が展開していることが分かり、この問題を考える上で特に有用であると判断し、目下、その詳細な分析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画において、本年度は、利得の吐き出しに関して(a)文献調査と、(b)海外研究者との意見交換を予定していた。 (a)については、当初の計画以上に順調に進んでいる。というのも、①我が国と②英米法圏のそれぞれの関連判決と論文の収集・分析について、予定通りに行うことができたに止まらず、英米法圏で高まる利得の吐き出しの拡張適用に関する議論の影響が③それ以外の国々にどのように及んでいるのかについても調査できたからである。この文献調査の成果は未だ公表する至っていないが、最終成果として公表予定の論文の基礎となりうるものである。 他方、(b)については、当初予定していた研究者との面談がスケジュールの都合で流れたが、関連するテーマの海外での学会報告を聞く機会を持ち、そこで交わされた議論に身を置いて最新の世界的潮流を再確認できたことは、今後アィディアをまとめるうえで大変有益であった。 以上の(a)(b)の進捗状況に照らすと、全体として見れば、本研究は、概ね予定通り順調に進行したものと評価することができる。
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今後の研究の推進方策 |
来年度も引き続き、文献調査を進める。我が国と英米法圏の状況に関する文献調査は今後も本研究の中心であるが、それに加え、本年度前倒しして着手したその他の国の状況についても詳細に調査する予定である。 次年度は、研究期間の折り返し年度に当たるので、最終的に公表する論文の完成に向けて執筆作業を進める。その作業の過程で、ワーキングペーパーのような形で中間的な成果の公表に努め、それを材料に海外研究者との意見交換を実現させたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた海外研究者との意見交換のための海外出張が日程上の都合により翌年度以降に実施することにしたため。
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