本研究は、別居または離婚後の子の監護に関する取り決めが子の奪い合い等の予防機能を有するという見地から、民間団体等の第三者支援を重視するイギリスの支援システムについて調査し、日本法への示唆を得ようとするものである。最終年度である令和元年度は、現行支援システムの問題点を踏まえ支援の個別化・多様化の有効性を検証するため、文献調査を行うとともに、ブルーネル大学の複数の研究者および民間団体Bold Movesのヒアリング調査を行った。 研究期間全体を通じ、次の3つの点について明らかにすることができた。1点目は、裁判移行前における第三者支援の単一化政策とその限界である。民間の家事調停(Family Mediation)の利用推進策がイギリスの支援システムの中心をなすが(いわば第三者支援の単一化)、実際にはその効果は十分に現れていない。個々の家族の事情に単一化政策では対応し切れていないという問題がある。2点目は、裁判移行後における支援の個別化・多様化である。裁判移行後も当事者間で合意形成の余地があると認められる場合には、裁判所は命令(order)を下さず、個々の家族の事情に適した民間の支援団体の利用を指示する(第三者支援の個別化・多様化)。裁判所におけるトリアージを経た支援の提供が当事者間の合意形成の可能性を高める結果となっている。3点目は、第三者支援の個別化・多様化に向けた新たな展開である。最近では、個々の家族の事情に適合する第三者支援の利用を促進する種々の試みが提案されている。研究期間を通して、主に1点目と2点目について、学会報告2件、論文1編を発表した。最終的なまとめは今年度公表するつもりである。 以上のように、本研究では、子をめぐる紛争予防の見地から、日本における効果的な支援システム構築を検討するうえで、支援の個別化・多様化とトリアージの重要性に関する示唆を得られた。
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