本年は、コロナ禍のため2度にわたって延長した研究期間の最終年となった。最終年は、これまでの成果をまとめつつ、次の課題に繋がりを持たせるべく、テーマの方向性を再設定する年となった。 本年は、主としてパブリック・ドメイン(PD)関係の研究に注力した。具体的には、PDについて、新規性、進歩性、先使用、均等論等との関係に着目して研究を進めた。本テーマの多元分散的統御が目指すところは、複数の紛争について、それぞれの裁判所の立場が統一されるのではなく、いくつかの考えをぶつけ合ってその「議論」の末に最適解を導こうというものだが、これらのテーマではおおむね「ぶつかりあい」が生じている。それを整理し、方向づけを行うことが本研究だが、本年を含むこれまでの研究期間においておおむね達成することができたように思う。 たとえば、用途発明に関する新規性・進歩性について、従来の裁判例の流れが一時期変わり、さらに元に戻るという揺り戻しが生じていることを論文で指摘した。これは、多元分散的統御が生じている証である。もっともこの問題は、最終的には一元的統御に収束することが望ましいと考えており、現在はその過渡期であることを論文で指摘している。 本年及びこれまでの成果は、論文の形でおおむね公表にこぎつけることができた点も良かった(公表が令和5年度に入ってしまうものも含む)。 本研究の成果は、次年度以降の研究(令和5~9年度科学研究費補助金基盤研究(C)「特許権は「脅威」か?-パブリック・ドメイン保護法としての特許法の再構成-」(課題番号23K01205))に直結するものである。
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