研究課題/領域番号 |
17K03501
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山口 いつ子 東京大学, 大学院情報学環・学際情報学府, 教授 (00262139)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | グローバル情報法 / アルゴリズム / データガバナンス / プラットフォーム / ガバメントアクセス / 透明性義務 / リスク評価 / 表現の自由 |
研究実績の概要 |
本年度は、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、当初計画を一部見直し、オンライン対応による英語での成果発信・学際的な研究連携に重点を据えた。本研究の3つの軸に関する知見等をまとめた成果として、主に以下の2つが挙げられる。 第1に、国際憲法学会のカンファレンスでの研究発表等の機会を得て、20世紀初頭以降のアメリカの表現の自由の原理論の展開を振り返りつつ、コロナ感染拡大に伴う社会経済活動の変容とデジタル化の加速が表現の自由と民主主義的価値にもたらすインパクトと含意の検討を通じて、特に、1)国境を越えたデータ統治(global data governance)において多国籍プラットフォーム事業者が担うべき責任の範囲・基準に係る日本法の現状と課題、2) 公正性・公平性や検証可能性等の価値を人工知能(AI)等を駆使したアルゴリズムに基づく意思決定システムの設計にプロアクティブに組み込んでいく必要性等を指摘した(研究発表欄の「Encoding Fairness and Checking Value in Digital Free Speech Theory」・「Algorithmatizing Fairness against Algorithmic Bias」を参照) 第2に、1)上述のデータ統治に関するプラットフォーム事業とガバメントアクセス、2)民間事業者から提供され営業秘密等でブラックボックス化されたアルゴリズムの公的部門での援用に関する、近年の欧米での裁判例及び立法・規制動向を分析し、データ保護・適正手続・透明性義務・リスク評価等の観点から考察を加えた。これにより、グローバルな適用範囲や効果をもって情報やデータの流れを規律し、一部地域における国内・域内の法が他地域の法や企業等の行動規範をデファクトで方向づける「グローバル情報法(global information law)」の台頭とも言うべき現象を捉えるとともに、日本の情報法概念がそうした効果を持ちうる未開拓の可能性を明らかにした(研究発表欄の「The Rise of “Global Information Law”」を参照)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、昨年度末から続く新型コロナウイルス感染拡大に伴い、国内外の移動制限、学会開催等の中止・延期、大学への入構制限等の緊急措置が相次いだため、とりわけ、海外出張及び紙媒体資料収集・整理等に関する当初の計画に関しては、大幅な見直しを要した。 その一方で、オンライン対応により、当初の計画では本務との調整等の関係で海外出張が難しかった国際的な議論の場に参加し、多彩な専門分野の数多くの研究者・実務者等と対話して、英語での国際発信の成果を挙げることができた。例えば、前掲の国際憲法学会のカンファレンスでの研究発表は、主催されたスロベニアのメディア報道で紹介された(SiolNET, DigiSVET. (July 3, 2020), https://siol.net/digisvet/novice/ali-je-na-druzbenem-omrezju-dopustno-napisati-da-je-covid-19-zgolj-se-ena-gripa-529193)。また、本課題研究のテーマに関するPrivacy Studies Journal創刊のためのEditorial Board(https://privacystudies.org/board/)会議にオンラインで参加して、次年度のカンファレンス企画を議論する機会にも恵まれた。 全体的に見れば、当初計画一部見直し等の影響を受けながらも、当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
前掲の「研究実績の概要」欄・「現在までの進捗状況」欄に記載したように、本年度は、新型コロナウイルス感染拡大に伴う当初計画一部見直し等の本研究遂行上のデメリットを差し引いた上でも、全体的に評価すれば、当初計画では予期していなかったメリットや成果もあったことから、今後も引き続き、新型コロナウイルス感染の状況に応じて必要な対応措置を講じながら、基本的には、交付申請書に記載した研究実施計画に基づいて遂行する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、前掲の「研究実績の概要」欄・「現在までの進捗状況」欄・「今後の研究の推進方策」欄に記載したように、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、国内外の移動が制限され、学会・国際会議が延期ないしはオンライン実施となり、当初の海外・国内出張予定を大幅に変更せざるを得ず、海外・国内旅費に差額が生じた。また、大学構内の研究室や図書館等で所蔵する紙媒体資料へのアクセスも制限され、図書館等での資料収集・資料整理等の予定も変更せざるを得ず、人件費・謝金についても差額が生じた。次年度に、海外での国際会議・国内での学会等への参加及び資料収集・整理等を予定しており、次年度使用額は引き続き旅費及び人件費・謝金として使用予定である。
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