研究課題/領域番号 |
17K03502
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
畑中 綾子 東京大学, 未来ビジョン研究センター, 客員研究員 (10436503)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 医療安全 / 事故調査 / 訴訟 / 司法の役割 |
研究実績の概要 |
今年度は、2015年10月から開始された医療事故調査制度の5周年に当たる年でも、あり国内の学会や研究会を中心に、5年間を振り返るシンポジウムやワークショップが数多く開催された。これら研究会の課題は、これまでの医療事故調査を行う実績数や事故調査委員会の調査体制、その課題を振り返るものであったが、本研究の中心はこの事故調査制度により民事訴訟や刑事訴訟といった訴訟数や、和解などの訴訟には至らない司法機能等にどう影響を及ぼすかについて調査を行った。今年度はCOVID-19の影響で対面インタビューが困難で、かつ病院関係者はCOVID-19の対応に押し出される形で多忙であったこと、対面での委員会実施が困難で委員会の開催自体が止まっているなどで思うような調査はできなかった。しかしながら、病院内弁護士2名、病院管理者4名のインタビューを実施し、また医事法研究会でインタビュー内容を法的側面から検討を行うことができた。結論からすると、医療事故調査制度の運用開始から5年の間に医療関係訴訟数への影響はある程度見られるのではないかとの見解があったが、その要因にはその他の医療制度改革の影響も見られるとも考えられ、どちらがどの程度の影響を及ぼしているの判断することは難しい。医療事故調査制度に則った事故調査の件数は報道にもあるとおり、あまり数は増えておらずその点についてももう少し数が増えてもよいのではないかとの言及もあったが、その一方で、医療事故調査制度で求められる調査の責任や仕事量が重すぎて、本来の医療安全業務を圧迫するなどの本末転倒ではないかとの指摘もある。事故調査制度の運用の社会的重みづけを同時に検討していくべきであると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の研究をスタートさせるときからある程度予想されたが、COVID-19による研究の遅れや実施できなかったことは多かった。海外の学会は軒並み中止や延期となり、来年度以降のオンライン開催となっている。国内の学会もまた同様であった。 インタビュー調査にあたっても、インタビュー対象者は医療者や病院関係の弁護士等が多く、COVID-19に押し出される形で業務圧迫や多忙な方が多く、インタビューの日程を立てることもなかなか難しかった。また、医療事故調査委員会も、カルテや個人情報が多分に含まれる内容であることからオンライン開催が困難で、かつ外部委員を交えて対面実施は感染拡大防止の観点から中止・延期されており、あまり進展がないという問題もあった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、これまでのインタビューの結果を踏まえ、医療事故調査制度の社会における重みづけという観点から、司法との関係を考えていく必要がある。すなわり、医療事故調査制度に基づく医療事故調査制度以外にも、特定機能病院や国立大学病院などは他の報告制度がある。例えば、医療機能評価機構への重大事故報告や、ヒヤリハット報告、監査報告における死亡症例報告などである。これら報告制度に比較して、医療事故調査制度のもとで開催する委員会の、事務方や委員の仕事量や責任が重く、迅速な事故調査報告につながらないことや、これら委員会の開催数などにリソースが傾けられると、他の医療安全がおろそかになってしまう点である。このような重みづけや地域差や機関による差が大きいと考えられるが、それら重みづけを社会としてどう考えるべきかの政策提案が必要になると思われる。その上で、訴訟数や和解などの司法との関連性を検討するべきであると考えられる。 次年度以降も同じような感染拡大防止の状況で、思ったようなインタビュー数が確保できず、また事故調査委員会の実施が困難であると予想されるが、短時間でのオンラインインタビューの実施や、まとまった研究内容を学会報告にあげてその場でご意見をいただけるような形で効率的に多くの意見を集めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は開始当初からCOVID-19による感染拡大防止の点から、海外渡航や国内の移動が禁じられ、国内外の学会や研究会は軒並み中止または延期となった。そのため活動予定の学会やそれにかかる旅費などが大幅に減り、未使用額が生じた。また、本研究対象は、医療機関の安全担当部門の医師や病院内弁護士を中心とするところ、病院への入構はもちろん、医療機関が多忙を極めてなかなかアポイントメントを確定させることが難しくなってしまった。医療事故調査委員会も外部委員の招聘が難しく、軒並み延期となったため進展がなかったという点がある。 次年度も学会はオンライン開催が多くなっているが、オンライン上でのインタビュー調査が可能であるほか、アンケートツールなどを使った非接触型の研究手段を活用する予定である。
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