2015年10月から開始した医療事故調査制度の運用実態について、法制度上の課題の調査研究を行うため,法学研究者として、実際の医療事故調査制度の運用にかかわる病院の医療安全管理者や医師会の担当理事等に対し質問票およびオンラインでの対面インタビューを行うことで実施した。問題意識の中心は、,医療安全向上につながりうる医療事故調査やその他活動を行う医療現場における近年の変化や医療事故調査制度の開始による影響を学び,加えて法がそれらの活動に何らかの積極的な役割を果たすことができないかという観点である。インタビュー対象者は,実際の医療事故調査制度の運用にかかわる病院の医療安全管理者や地域で院内調査の支援団体となっている組織の役員の方々などのみならず,患者側の視点を持つ方等20名である。 インタビューでは、医療事故調査制度の「医療事故」という言葉が一般的には交通事故のような誰かの「失敗」によっても たらされたものというイメージを含むことで、遺族にも医療関係者の中での事故調査の実施に一種の躊躇や不安・不信の感 情を芽生えさせていることや、医療事故調査の手順が医療機能評価機構の報告制度等に比べて重く、担当者にとって大きな 負担でありいくつもこなすということが困難であり、事案の内容によってその手順の軽重をつけることが運用のカギなので はないかとの点が指摘された。また、医療事故調査制度に則った報告および調査を行う一連の業務の中で、病院スタッフの 中に一体感を生むことや安全管理部門への関心を生むなどのメリットもあることも理解された。司法との関係においては、 報告数の面から十分な根拠はないものの、事故調査報告がなされることで遺族の納得が得られた経験や、訴訟において患者 にも医療者にも客観的な証拠として報告書が利用されることのメリットが語られた。
|