本年度は、以下の研究を実施した。 第1に、昨年度に引き続き、ジェンダー法学理論の変容に向けた基礎的作業として、ジェンダー法学の(とりわけ、本年度は承認論に係る)諸理論につき調査分析を進めた。 第2に、ジェンダー法学実践の変容(分配分析としての再記述)に向けた基礎的作業として、その最大の論敵とも言える「法と経済学」の思考様式につき再検討を行い、その成果を論文「初期「法と経済学」再訪」にまとめた(『法学論叢』188巻4=5=6号)。その主な意義は以下のとおり。「法と経済学」を法学史上に位置づけてみるならば、一般的な理解に反し、それはリアリズム法学(がもたらした法的思考の政策分析化)を拒絶することによって成立したものであることが判明する。むしろ効率性基準の適用による正解導出を謳う初期「法と経済学」の思考様式に対しては内在的批判が可能であり、現代の法律家が実践している分配分析をそれは理論的にも実務的にも否定し切れていないのである。 第3に、これまでの研究成果を批判法学の思考・制度・実践に関する法構想という形で総合し、その成果を論文「法的なるものと再分配―批判法学の法構想」にまとめた(『法律時報』1163号)。その主な意義は以下のとおり。批判法学によれば、法的思考は政策分析として、裁判所は政策論争のフォーラムとして、それぞれ現代的に再記述することができる。すると、これらを背景として営まれるジェンダー法実践は、男性一般/女性一般の「集団的」利害対立に係わるものとなる。このように、本研究は全体として、集団間の富の再分配(とアイデンティティの承認)の是非を「法学内部で」主題化する批判法学の理路がジェンダー法領域においても妥当することを示しており、ジェンダー法学の実用化(しかも、経済学的知見との接続が可能な形での)のための確固たる理論的基盤を提供するものになっていると考える。
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