本研究では、情報にまつわる個人の権利保護(私益)と、文化や社会における公益とを結んだ中間に、「公共的利益(みんなの利益)」なるものを概念化、さらに具体化することを「研究の目的」とした。着目したのは、パブリシティ権等で保護される、スポーツ選手や芸能人の氏名・肖像といった情報、すなわち、人格の関連する知的財産である。 研究実施計画に沿い、まずスポーツ選手(個人)と権利と社会の関係を、氏名・肖像の発信(ブログ、SNSなど)、報道(インターネット、テレビなど)、利用(許諾、契約など)から考察した。そして、当該情報の価値には、従来から指摘されている人格的および経済的な価値にくわえ、スポーツ選手と周りの人々との、意思表示や行為を伴う双方向のやり取り(「協同」)によって創り出される、第三の、社会的な価値のあることが明らかになった。 また、当該年度では、スポーツ選手と同様に、社会的な影響力のある芸能人にも、こうした側面のあることが分かった。よって、スポーツ選手や芸能人の氏名(グルー名)・肖像といった情報の「財」には、自律と労働とともに、「公共的利益(みんなの利益)」が関連し、ゆえに、本人と他者とのあいだ(みんなのなか)の適正さ(フェア)が重要であり、本人の自己決定を尊重すること、および交渉する機会を確保することが、当該情報の価値を権利として保護する意義だと確認できた。 AIの台頭のなか、「財」を生み出す情報は、個人の自律や労働との関係が希薄なものも少なくない。今後は、こうしたなかで、あえて情報の価値を権利として保護する意義は何か、これまでの研究をふまえ考察を深めたい。
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