本研究は、「まちづくり」や「地域再生」に関する近時の議論で、地域内での内需拡大と資本の循環の重要性が説かれていることを踏まえ、「地域内循環型経済」の理論モデルを精緻化するとともに、それと知的財産法の接合のあり方を探求するものである。 令和2年度は、地域内循環型経済に資するような知的財産法のあり方についての検討を継続して行った。具体的には、博多の伝統的工芸品である博多織に関して地域団体商標がどのような役割を果たしうるのかということについて、文献調査に加えて、関係者へのヒアリングを含めた実態調査を行った。 博多織については、地域ブランド等の創出を目指す活動が行われているにもかかわらず、地域内において関係当事者間にに対立が生じ、一部のアクターが排除される状況(いわゆる「地域内アウトサイダー」の問題)が生じたことがある。そこでは知的財産権の所在がかえって当事者間の緊張関係を高めていることが観察されており、その問題をどのように乗り越えるべきかということに向けた理論化に取り組んだ。 新型コロナウイルス感染症の拡大により研究期間を1年延長したが、令和2年度が本研究の最終年度に当たることから、これまでの理論的検討を踏まえて、地域資源の創出と利活用において知的財産法が果たすべき役割について、一定の見通しを示すことを目指し、地域資源に関する論稿を2本発表した。
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