研究課題/領域番号 |
17K03509
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研究機関 | 酪農学園大学 |
研究代表者 |
遠井 朗子 酪農学園大学, 農食環境学群, 教授 (70438365)
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研究分担者 |
村上 裕一 北海道大学, 法学研究科, 准教授 (50647039)
眞田 康弘 早稲田大学, 地域・地域間研究機構, 客員主任研究員(研究院客員准教授) (70572684)
鶴田 順 明治学院大学, 法学部, 准教授 (90524281)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | CITES / 条約の変容 / 条約の国内実施 / 野生生物犯罪 / 海洋生物資源 / 持続可能な利用 / 種の保存法 |
研究実績の概要 |
年度前半には、市民セミナー及びシンポジウムを開催し、多様なアクターと意見交換を行った。8月にはJWCSと共催で市民セミナー(「買い物の先にある絶滅と世界の潮流」)を開催し、野生生物の密猟、違法取引の防止における市民の役割とフェアトレード認証の利用可能性について検討を行った。9月には、研究分担者(真田)が国際シンポジウム(「海産水産資源の持続可能な利用とワシントン条約:グローバルな規範形成と日本の対応」)を開催し、研究者、政府関係者、環境NGO、報道関係者等、多様な立場の人々と問題を共有し、建設的な議論を行った。これらの機会を通して、日本においては、条約の国内実施プロセスの透明性が低く、市民が意見を形成し、意思決定に反映させる機会が十分ではないことが確認された。また、第70回常設委員会にオブザーバーとして参加し、審議の観察を行った。日本の調査捕鯨(北東太平洋におけるイワシクジラ)が不遵守にあたるか、という議題については、国際協調に基づき、捕獲中止を確約した日本の対応は概ね受け入れられたが、象牙については、NIAPプロセスにより対応が改善された諸国の「卒業」が認められる一方で、法改正により規制強化を行い、市場を維持する意向の日本の対応については評価が分かれたことを確認した。年度後半には、10月に研究会、3月にスカイプ会議を各1回開催し、メンバー間で情報共有を図ると共に、各々の進捗状況について中間報告を行って、最終年度の研究成果の見通し及び公表方法を検討した。以上を踏まえて、条約の国内実施プロセスを多元的な統治の場(locus)として捉えなおすという基本方針を立てて、条約レジームに動態性をもたらす諸要因について仮説と実証を試みると同時に、他国と比べ、消極的かつ硬直的な日本の国内実施について、変化と停滞のメカニズムを、法的及び行政学的な観点から、明らかとするという目標を共有した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多様なアクターと議論を重ねsocio-legalな分析視点をとることで、以下の観点を得ることができた。第一に、他国の野生生物の生存に対する市民の関心は、条約締結当初の80年代と比べると低下し、その範囲も限定される傾向にある。この点は更なる実証を要するが、違法取引の監視機能が脆弱化し、政府が実施措置の抜本的見直しの必要性を認識する機会も減少するため、国内実施措置が停滞する一因となっている可能性がある。第二に、80年代から90年代にかけて、日本が実施の見直しを余儀なくされた背景には、他国(主として米国)の「外圧」があったが、近年は遵守手続及び多様な経路を通じた実施の監視と矯正の制度化が進み、他国の行動変容を目的とした貿易制裁等の一方的措置は見られない。但し、日本は常設委員会における不遵守の指摘に対しては迅速な改善を図ったことから、サンクションが行動変容の重要な契機であることに変わりはない。第三に、92年のクロマグロ掲載提案を契機として、2000年代以降、海産種の附属書掲載事案が増加しているが、これらに対する日本の対応は一貫して防御的である。この点には、科学当局であり、水産資源管理・規制当局でもある水産庁の意思が色濃く反映されているように見受けられる。このように、CITESの附属書掲載の傾向が変化する中で、実施措置に関連する部局の範囲も広がりを見せているが、担当部局間の調整には若干の混乱がみられ、国内実施を統合的な施策と捉える視点は十分には確立されていない。第四に、密猟、違法取引に対する法執行の強化は、法改正による厳罰化、警視庁の積極姿勢等により、改善が図られているが、その効果の検証はなされておらず、他の禁制品対応よりも、依然として優先順位は低いとの指摘がある。一方、規制当局間の権限配分及び調整の態様、法執行強化の効果、社会意識の検証については更なる検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
本年6月に開催が予定されている環境法政策学会の分科会セッションを企画し(「CITESの変容と国内実施」)、採択されている。分科会では、代表者(遠井)が分析の視点及び研究成果の概要を報告し、研究分担者(真田)が「海洋生物資源の持続可能な利用とCITES及び日本の対応」、研究協力者(田中)が「越境する密猟・違法取引への国際的対応とCITESの国内実施~種の保存法の検討を中心として」、研究分担者(村上)が「CITES実施の多層的規制モデル」を報告し、条約と国内規制の関係について、多角的検討を行う予定である。また、CITES研究の第一人者である磯崎博司氏(岩手大学名誉教授)及びTRAFFIC JAPAN代表の北出智美氏にコメントを依頼し、通時的変化及び国際比較の視点も反映させる予定である。報告準備の過程でさらに議論を重ね、学会報告における評価を受けて、論点を明確化し、理論的にも精緻な内容へとブラッシュアップする予定である。さらに、研究成果を英文ジャーナルに投稿し、又は研究論文(邦文)として取りまとめ、公表することを目的として、実証に裏打ちされた国内実施の理論モデルを提示する。さらに、日本における国内実施措置については、理念と現実のギャップ要因を見極めて、ギャップを埋めるために必要となる方策を、立法措置を含めて多角的に検討する。尚、遠隔地にいるメンバー間の情報共有及び議論のための、web上のプラットフォームの開設が遅れている。この点は速やかに改善を図りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
経費は主として、研究会の開催費用及び国際会議への出席・登録費用と旅費として執行しているが、昨年度前半に開催したセミナー及びシンポジウムは、いずれも他機関との共催又は他機関の主催にメンバーが個人で参加する方式をとり、科研費からの支出を抑制することができた。また、年度前半に多様なアクターと議論を重ね、常設委員会にメンバーが参加していたこともあり、研究会の開催は年度後半となった。10月の研究会でとりまとめの方向性を議論し、学会企画に応募し、採択された後、再度の打ち合わせの日程調整が遅れたこと、および、分担者の1名が昨年度後半から在外研究に出ていることもあり、二度目の研究会はスカイプ会議で代替した。これにより、研究会開催に伴う旅費支出予定分が未執行となったことが、次年度繰越金が生じた理由である。尚、今年度は、上記の学会企画に伴う支出があり(メンバーの旅費、謝金等。)、さらに、CITES締約国会議(COP18)にメンバーがオブザーバーとして参加する予定であり(5月開催予定であったが、テロのため延期中。)、その渡航費用として執行予定である。さらに、研究成果の投稿、校正費用も確保する必要がある。尚、海外の研究者の招聘については、予算及び日程調整を含めて、再検討を行い、可能な範囲で実現したい
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備考 |
市民セミナー「買い物の先にある絶滅と世界の潮流」(2018/8/4札幌環境エルプラザ)共催、シンポジウム「海洋水産資源の持続可能な利用とワシントン条約」(2018/9/26早稲田大):真田康弘「ワシントン条約における日本の多国間外交と今後の展望」遠井朗子「CITESの変容と日本の国内実施」、真田康弘「イワシクジラとワシントン条約:第70回常設委員会報告」JWCS通信、第85号、2018年、2-7頁
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