研究課題/領域番号 |
17K03509
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研究機関 | 酪農学園大学 |
研究代表者 |
遠井 朗子 酪農学園大学, 農食環境学群, 教授 (70438365)
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研究分担者 |
村上 裕一 北海道大学, 法学研究科, 准教授 (50647039)
眞田 康弘 早稲田大学, 地域・地域間研究機構, 客員主任研究員(研究院客員准教授) (70572684)
鶴田 順 明治学院大学, 法学部, 准教授 (90524281)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | グローバル・ガバナンス / レジームの変容 / ワシントン条約 / 持続可能な利用 / 野生生物犯罪 / 環境条約の国内実施 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、環境と開発に関するグローバルな統治の進展が環境条約の規制対象及び規制アプローチにどのような影響を及ぼしているか、という点を明らかにすると共に、上位政策と連動し、動態的に変化する環境条約の国内実施のあり方を検討するものである。検討対象は採択から半世紀弱を経過し、グローバル条約へと発展を遂げた絶滅が危惧される野生動植物の国際取引に関する条約(CITES)である。条約実施機関会合への参加、NGOネットワークを介した情報収集、公式文書、関連文献の収集、調査等により、締約国会議の議案の変化を検討すると共に、対立する陣営がどのようなレトリックを用いて自らの立場を正当化し、議案の採択及び附属書改正に影響を及ぼしたか、という点について分析を行った。 検討の結果、第一に、規制レジームの制度化に伴い、国内実施について管理的措置が求められるようになると共に、これを支援する能力構築プログラムは一定の成果を収めていることが明らかとなった。第二に、条約間のシナジー及びイシュ―・リンケージにより、新たなアイディアが受容され、対立・競合する議論の構造に影響を及ぼしていることが分かった。例えば、野生生物の商業的利用を求める締約国は、90年代には「持続可能な利用」の主張を展開し、象牙の取引再開に影響を及ぼしたが、近年は増大する密猟・違法取引への懸念から、「野生生物犯罪との闘い」という対抗言説が優勢となり、規制の厳格化及び法執行の重点化へと転換が図られている。一方、「持続可能な利用」の主流化は野生生物のコモディティ化を促し、附属書掲載が科学的な資源管理に寄与するとの認識も共有されつつある。このような変化に対し、日本は拒絶又は消極的受容に留まり、国際的な批判を浴びているが、EUは多層的、多元的「調整」という柔軟なアプローチで実施の確保を図り、規範形成において影響力を増大していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者、研究分担者、研究協力者は、環境法政策学会学術年次大会(2019年6月、上智大学)企画セッション(「地球環境ガバナンスとレジームの変動―CITESの発展・変容と日本の国内実施」)で研究成果の口頭報告を行った。研究代表者(遠井)は、内在的及び外在的要因により、CITESの規制対象が拡大し、締約国の国内実施への制度的関与が強まる一方で、完全担保主義を標榜する日本の国内実施は硬直化し、レジームの変化を適切に受け止められていないことを指摘した。研究分担者(真田)は、2000年代以降、海産種を附属書IIに掲載し、資源管理を促進する動きが活発化しているとして、その要因分析を行うと共に、日本は場当たり的な投票行動で国際的な評判を損なっているとの指摘を行った。研究協力者(田中)は、環境条約の動態性を国内で受け止めるためには、締結後の法令の点検や、法令解釈に条約の趣旨目的を読み込んで執行強化を図ることが必要となるが、執行段階での解釈変更には一定の限界があり、刑罰については、罪刑法定主義の観点から柔軟な解釈・執行は困難であると指摘した。さらにこの観点から種の保存法改正の評価を行うと、目的規定に生物多様性の確保が追加され、罰則規定についても執行強化の配慮はみられるが、条約の要請とは尚、開きがあることが指摘された。研究分担者(村上)は、「多層的規制」理論に基づいて、日、仏、EUの実施手法の比較検討を行い、EU・仏においては、規制に関わるアクターやルールの多層性、多元性を意識的に捉え、相互の関係性を改善していく「調整」問題とみて、共通の理念・目標を掲げつつ合意形成を図り、大胆なルール・メイキングと現場調整の切り分けを巧みに行うことで問題解決が図られているとの見方を提示した。研究分担者(鶴田)は環境条約の国内実施について、学会報告及び研究論文の公表により、普遍的な理論構築の観点から貢献した。
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今後の研究の推進方策 |
学会企画セッションの報告は、グローバルな環境ガバナンスの進展がCITESの規制レジームの動態的な変容に直接、間接に影響を及ぼしていること、及び条約のダイナミズムを適切に受け止められていない日本の認識及び行動の硬直性を浮き彫りにすることには一定の成果を収めたが、条約レジームの動態性と日本の認識・行動とのギャップがなぜ生じてているかという点についてはさらなる検討を要し、学際的研究としての位置づけについても再検討を行う必要があった。そこで、これらについてはメール、web会議等により、意見交換及び議論を継続し、研究の進捗を図る予定である。検討の手順としては、「グローバル・ガバナンスと法」研究、国際政治学における規範研究等、先行研究の範囲を拡大して先行研究レビューを行い、本研究課題の理論的位置づけについて再検討を行う。合わせて、条約実施プロセスを分析するための作業概念及び分析枠組みの明確化を行い、「法と政治」、「政治と科学」、「非国家アクターの影響」等の各論的な論点については、共通の検討指針をたて、具体的な検討は個々の研究の中で展開する。また、「持続可能な利用」、「野生生物犯罪」等の鍵となる重要概念については、時系列に沿った整理と共に、誰が、どのような文脈でこれを援用し、レジーム内で正当性を獲得するか、というプロセスを意識して、取りまとめる必要がある。このような検討は主軸となる論理と関連するため、執筆途中から随時意見交換を行って、多角的な観点を反映し、柔軟に修正を行うことが可能となるよう風通しの良い研究体制を確立する。 尚、これらの研究成果はとりまとめて共著図書として出版する企画をたてている。執筆、編集のスケジュールを定めることで、検討作業を加速する。
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次年度使用額が生じた理由 |
上述の通り、学会企画セッションにおける口頭報告(抄録及び質疑)を基礎としつつ、さらなる検討を行って、最終的な研究成果は共著図書として出版する予定をたてている。作業概念及び検討枠組みをさらに精緻化し、学際研究としての意義を明確化する必要性を認識したため、研究期間の延長を申請し、検討を継続するが、議論や意見交換等はメール及びweb会議ツールを活用し、未執行分は書籍出版に要する諸費用に充当する予定である。
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備考 |
真田康弘「ワシントン条約第18回締約国会議報告」JWCS通信 Vol.88 2-3, 2019 シンポジウム「サメの世界を知る~絶滅のおそれのあるサメ」(2019年9月13日、東京帝京大学千住キャンパス、主催:NPO法人野生生物保全論研究会) 真田康弘「ワシントン条約(CITES)第18回締約国会議(CoP)18報告―CoP18におけるサメに関する議題」
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