研究課題/領域番号 |
17K03510
|
研究機関 | 獨協大学 |
研究代表者 |
宗田 貴行 獨協大学, 法学部, 准教授 (60368595)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 消費者団体訴訟 / 適格消費者団体 / 妨害排除請求権 / 差止請求権 / ドイツ不正競争防止法 / 返金命令 / 返金請求 |
研究実績の概要 |
本研究の第一の目的である消費者の集団的被害の回復に関しては、先方から依頼があったため、ドイツにおける消費者団体訴訟の近時の展開について、ドイツでの取材及び現地で収集した資料に基づき検討した論文「ドイツにおける消費者団体訴訟制度の新たな展開――消費者被害救済のための妨害排除請求権の活用――」を公表した。また、クロレラチラシ事件高等裁判所判決の判例評釈「景表法上の適格消費者団体の差止請求権に係る『現に行い又は行うおそれ』の要件」において、適格消費者団体訴訟の差止請求権の種類・要件・内容について、従来の学説・判例の問題点・限界を指摘した。これらにおいては、例えば、不当表示の事例での訂正書面配布請求が、消費者団体の妨害排除請求権に基づき可能であることと、妨害排除請求権に基づく返金請求も、不当約款の事例で可能であると指摘した。さらに、ドイツ競争制限禁止法第9次改正の検討を行った論文を連載中である。 本研究の上記第一の目的及び第二の目的(行政処分による消費者被害の回復)について、独立行政法人国民生活センター報告書・比較消費者法研究会編『消費者被害の救済と抑止の手法の多様化』において、「第2章 ドイツにおける消費者被害救済と違反抑止手法」を執筆した。また、日本比較法学会大会「消費者法の発展―被害の救済方法と抑止方法の多様化」(企画責任者 松本 恒雄(独立行政法人国民生活センター))において、「ドイツ」担当として報告を行った。さらに、先方からの依頼があったことから、上記第一及び第二の目的に関しては、2017年9月、スイス・バーゼル大学におけるドイツ比較法学会大会において、「Collective Legal Protection in Japan」と題して報告した。これらにおいては、行政処分に基づく被害者への返金命令が可能であることをドイツにおける判例・学説・立法の展開を踏まえて、指摘した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
筆者の予想以上に研究の成果に対する反響があったからである。具体的には、以下のようないくつかの要因が重なっているといえる。 第一に、ドイツの学会からの学会報告(2017年9月15日、スイス・バーゼル大学にて)の依頼である。第二に、日本の雑誌(国民生活研究)からの論文執筆依頼である。第三に、上記クロレラチラシ事件高裁判決の判例評釈の依頼を受けることができ、その研究は、期せずして、筆者の本研究の発展に大いに寄与することとなったことである。これは、現在執筆中の新たな論文「適格消費者団体の差止請求権の種類・目的・要件・内容(仮)」(獨協法学105号掲載予定)に反映されるものである。第四に、ドイツにおける競争制限禁止法第9次改正の検討を行った論文においては、消費者が同法違反の価格カルテル等によって被害を受けた場合に、どのように被害救済を行うのかという問題について、例えば、証拠収集手段の改善がみられることや、カルテル庁の違反認定に後続する損害賠償請求訴訟において拘束効があることや、消費者団体の妨害排除請求権に基づく集団的消費者被害の回復が可能であることなど、参考になるところが多く、これらの検討は、期せずして、本研究の第一の目的に合致するところであった。このため、これに関する論文を国際商事法務に連載中(全6回を予定)である。第五に、ドイツ調査滞在中に、当初予定していた訪問先以外にも、ヒアリングの機会を得ることができたことも挙げられる。第六に、2018年4月1日から一年間、所属大学の海外研修プログラムでドイツ・ハンブルクにて滞在研究を行う機会を得たことも挙げられる。第七に、2018年4月11日には、欧州委員会から、消費者の集団的利益の保護のための代表訴訟に関する指令案が公表された。これは、第一の目的に関係するものである。 以上の諸点により、本研究は、当初の計画以上に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は、消費者被害救済を民事法及び司法によって行うことに関し検討すべき問題点及びその限界と改善策、集団的消費者被害の救済に行政機関が介入することの妥当性、根拠、範囲等について明らかにすること及び、集団的消費者被害救済及び違法収益徴収制度における司法と行政の役割を明らかにすることを目的として行われるものであるため、今後、以下のことを研究する。 まず、第一の目的に関しては、上記判例評釈のテーマからの展開として、適格消費者団体訴訟の差止請求権の種類・目的・要件・内容について、ドイツにおける議論の展開を踏まえた論文を執筆し、公表することを予定している。そこにおいては、特に、適格消費者団体は、単に将来の行為を差し止ることを求める請求権を有するだけではなく、違反により生じ、なお現存する妨害状態の排除を行うための作為を請求する妨害排除請求権をも有し、これに基づいて、不当表示の事例での当該表示物の撤去、訂正書面の配布、さらに、一定の場合には、返金請求も可能であることを指摘する。第一の目的に関しては、さらに、2018年4月11日に欧州委員会が公表した消費者の集団的利益の保護のための代表訴訟に関するEU指令案においては、まさに、ドイツにおいて近時発展してきた上記の消費者団体の妨害排除請求権に基づく作為請求権を明記されているため、同指令の検討を行う論文を獨協法学106号に掲載する予定である。 次に、第二の目的に関しては、日本消費者法学会(2018年11月明治大学)において、ドイツにおける行政処分に基づく消費者被害回復に関する研究を踏まえ、我が国での行政処分に基づく消費者被害回復の可能性について、報告を行う予定である。これについては、現代消費者法に論文を掲載する他、より幅広い考察を行う論文を獨協法学に掲載する予定である。 これらの研究のために、ドイツでの現地調査および資料収集等を行うこととする。
|