消費者法違反によって多数の消費者に同種の被害が生じた事例において、第一に、適格消費者団体の差止請求権制度によって被害を救済することの可能性について調査・検討を行った。その結果、差止請求権と相互補完関係にある妨害排除請求権に基づく被害回復が可能であるとの結論に達した。 第二に、消費者裁判手続特例法の利用が芳しくないことから、その問題点と改善について、ドイツにおいて新たにスタートしたムスタ確認訴訟制度の制定及び運用を調査・検討した。その結果、消費者裁判手続特例法の適用範囲が無用に限定されていること等の問題が明らかとなった。特に、共通義務確認訴訟と簡易確定手続との二段階の手続をセットにしている設計上、第一段階の手続で解決可能であるが第二段階では解決困難な事例を、第一段階の手続の入り口段階で排除しているといえる。このことに基づき、同法は、係る制度設計によって、第一段階の手続後の和解で終結するような事案の解決可能性を阻んでいるといえる。 第三に、従来は、公法私法二元論の下で、行政処分の役割は、被害予防と将来の被害の拡大防止にあり、被害回復は、民事・司法の役割であるとされてきた。しかし、近時、EU及びドイツにおいては、行政処分に基づく被害回復が認められていることを調査・研究した。その結果、我が国においても、行政処分に基づいて、消費者の財産的被害回復を行うことの可能性を検討することができた。具体的には、一定の場合には、特商法違反や景表法違反に関して、一定の要件の下であれば被害回復を行政処分によって命じることができると考えられる。もっとも、この点については、まだEUにおいても歴史が浅いことから、今後の展開も踏まえて、我が国についてなお検討を要するので、引き続き調査・検討を行うこととしている。
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