本研究は、我が国における宗教法人法制を考える上で不可避な課題である宗教団体・宗教法人のもつ「公益性」とそれを裏付ける法律上の制度のあり方について、多面的な角度からその内容と課題を明らかにするとともに、わが国の宗教を取り巻く現状に適合した宗教団体と信者の関係性に沿った宗教法人法制のあり方を検討することを目的としている。具体的には、(1)宗教団体運営における透明性・ガバナンス、(2)宗教団体に対する寄附金や布施の法的性質、(3)宗教団体の管理する資産の法的性質と行政機関の関与という3つのサブテーマを設定した。 本年度は、引き続き新型コロナウイルス感染症の影響により現地調査を実施することができず、十分な資料を収集することも難しい状況が続いたが、管理資産の法的性質や行政機関の関与を中心に資料を中心とした分析を行った。なかでも、トルコにおける「公益ワクフ」の置かれている現状と課題、実際の運用の状況を資料の分析から知るとともに、寄附金や布施についての追加調査を行った。宗教団体とその資産であるところの「公益ワクフ」の管理に関する行政機関としてトルコにおける宗務庁が重要な役割を果たしているが、その組織や権限については殆ど知られておらず、法学的な観点から分析を行った。また、トルコ宗務庁の職員は、多くがイスラム法を学んだ者でありワクフの法制における近代法とイスラム法との相互作用や宗務庁・ワクフ法制の政教分離上の理解についても並行して分析を行った。
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