本研究「日本における法曹倫理理論の確立に向けた基礎研究―守秘義務と利益相反を中心に」は、未だ必ずしも学術的な理論の確立に至っていない法曹倫理という学問的分野について理論的体系化を目指すため、その中核として位置付けられる守秘義務および利益相反の理論について基礎的な研究を行った。 守秘義務については、これを依頼者の同意により解除を認める法域と、そうでない法域が存在するが、根拠としては依頼者の保護と共に弁護士の独立した専門職としての職務遂行があることを確認した。また、利益相反について、これまで日本においては、弁護士法25条の立法趣旨として、①依頼者の利益の保護、②弁護士の適切な職務の遂行、③弁護士の品位保持、の3点が説明されてきたが、欧米ではより精緻化した議論の中で、依頼者の秘密の保護が主要な論点となっていることを確認した。 これらの研究の成果としては、その主要なものとして、2019年1月より『ジュリスト』において「新時代の弁護士倫理」という連載企画のコーディネーターを務めた。また、加藤新太郎先生古稀記念論文集(2020年8月公刊予定)において、「利益相反回避手段としての情報遮断措置の位置づけ―アメリカにおける議論の変遷を参考に―」を公表し、アメリカにおける法律事務所内の情報遮断措置が、どのような位置づけにあるかを検討した。今後若手弁護士の事務所間の移動も増えてくることが予測され、そのような場合の利益相反の規律の在り方への示唆を得た。 さらには、2019年11月には、大阪弁護士会の倫理研修で講演し、欧米における守秘義務、利益相反の規律と日本の現状の違いについて説明し、今後の日本の弁護士職務基本規程の改正の方向性について議論した。 この三年間の研究成果は、2020年度からの科研費(基盤C)にもつながっており、さらなる積極的な研究公表を行っていきたいと考えている。
|