最終年度は在外研究年度に該当したこともあり、本研究課題に関する国際的な意見交換と成果公開、ならびに2020年大統領選挙予備選挙過程の現地調査に注力した。具体的には台湾国立政治大学社会科学学院ならびに国際事務学院、またハーバード大学国際問題研究所を拠点に国際学会での報告、研究会参加、現地調査を重ねた。予備選挙過程の現地調査ではアイオワ州東部に焦点を絞り、2019年秋からの断続調査で共和党と民主党の動向を調査した他、ワシントンDCにおける全国委員会関係者への聴き取り調査も行なった。 政党の集票戦略において党内対立軸を乗り越える統一的ブランディングに欠ける中、争点別・支持基盤別の伝統的個別アウトリーチの役割も消えていないことを確認した。民主党内に浸透する「民主的社会主義」の支持層は白人高学歴の世俗派が主体で、文化リベラル路線が土台にあるため、本来は再分配で利益を得るはずの白人労働者層を遠ざけ、黒人やヒスパニック系は同性婚など文化争点では世俗派とは一致しない。共和党においても、財政政策、貿易政策など経済争点の不協和音を連邦最高裁判事指名など宗教争点で糾合する工夫を強いられているが、キリスト教保守派の草の根運動の効果と同時にリバタリアンとの足並みの乱れも見られる。他方、オンライン戦略に関しては、デジタル戦略を駆使したアウトリーチの活性化の一方で、2020年アイオワ州党員集会で州委員会が決めた「バーチャルコーカス」を民主党全国委員会がサイバーセキリュリティの点で却下した経緯に象徴されたように、二党競争の環境下での倫理、セキリュリティ、集票効果をめぐり決定的方向をアメリカの二大政党は見出せていない。
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