本研究の目的は、調整型市場経済に分類されてきた日本型経済レジームの構造的再編の過程で企業活動に対する規制強化を意図する政策がなぜ実現したのかを 長期的視座から解明することにある。この目的の達成に向けて、2021年度は、競争政策(独占禁止政策)の政策過程についての事例研究を進めた。 この四半世紀余り、日本を含む世界各国は経済のグローバル化の波にかつてないほどにさらされてきた。経済的グローバル化には多様な側面があるが、一般的には市場経済の自由主義化が顕著に進むことを含意する。新自由主義思想の下では、政府は市場経済の成長可能性を阻害する、非効率的な存在として扱われる。したがって、新自由主義に依拠するならば、19世紀以降、積極国家化や福祉国家化に伴って拡大してきた国家の役割を大幅に見直し、むしろそれを縮小させることこそが、政府の重要な課題となる。しかし、これらの見方はどの程度正しいのだろうか。 本研究では競争政策(独占禁止政策) に焦点を当て、自由主義化が進むなかにあっても、むしろ国家の機能強化が図られてきたことを明らかにした。それまで、日本の独占禁止政策の運用実態は国際的に見て低調であったが、1989年の日米構造協議でのアメリカ政府からの強い要望もあり、これを契機として、市場メカニズムを十全に作動させるには競争政策を通じて政府が競争環境を整備することの必要性・重要性が認識されるようになった。それ以降、独禁法改正を通じて規制の厳格化や執行体制の強化が進められた。とくに、新自由主義思想を背景とする構造改革が取り組まれた2000年代の小泉政権下で独禁法の規制強化が進められたことは特筆に値する。この事例は、自由主義化は単に国家の縮減を意味するわけではなく、逆に国家による規制の強化につながる側面もあることを示している。
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