2019年度については、(1)前年度に引き続きフランスの中央-地方関係分析や両者間の政策過程に関わる学術的研究成果の収集を行いながら、(2)自治体(市町村に相当するコミューン)の広域化の状況やその要因についての論文発表を計画していた。本経費を用いて8月後半に渡仏し、パリのフランス国立図書館や大学図書館等で資料収集を行いながら、(2)について論文「フランスにおける近年のコミューン広域化の動向と要因」を執筆し、茨城大学人文社会科学部紀要にて公表した。 そこでは、フランスにおけるR. Pasquierらの先行研究も参考にしながら、以下の点を明らかにした。第一に、3万6千のコミューンを抱えてきたフランスにおいては政府による合併推進策が奏功せず、長年コミューン数は変わらないまま推移してきた。その背景には、現状維持派である有力な市町村長の全国組織とそれを基盤とする上院の存在がある。その一方で実際の広域行政の要請に応える多様なコミューン間協力組織が機能してきた。第二に、2010 年代には財政危機と EU からの財政赤字削減圧力が強まるとともに、サルコジ、オランド両大統領の下で地方制度改革と合併に対する財政優遇措置が進められる中で、自治体広域化が一定程度進捗し、コミューン総数は千数百減少している(2019年1月現在)。しかし、第三に、今後も広域化「運動」が進むかどうかは、財政優遇措置がいつまでどの規模で続くか、広域化した自治体の運営を担える改革派の地方政治家が全国にどの程度存在するかによる。
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