研究課題/領域番号 |
17K03528
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
近藤 康史 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (00323238)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | イギリス政治 / 比較政治 / 政党システム / 政党組織 / 二大政党制 / 保守党 |
研究実績の概要 |
2019年度においては、これまでに行った理論枠組をベースとしながら、特にEU離脱をめぐる保守党・労働党内部の対立状況と、それが生み出す議会政治の変化の観点から、現在のイギリス政党政治の変化について分析を進めた。 昨年に引き続き、Hanspeter Kriesiらによって提起されている経済的対立と文化的対立への対立軸の二次元化の視点を導入しながら、イギリスにおいてはEUやそれに付随する移民・難民をめぐる争点が文化的対立としてセイリエンスを高めており、そのことが政党間対立の構図の変化とそれに伴う議会政治の変容へとつながっていることを論じた。 具体的にはまず、EU離脱後のイギリス議会政治の状況について、文化的対立による二大政党内における一体性の低下と、小政党の増加に伴う多党化に伴い二大政党の占める議席数が低下することによって、現在の議会内での多数決型の決定も合意型の決定も困難な状況になっていることを検討した。そのことは、これまで執政優位の典型例に位置付けられてきたイギリスの議院内閣制が、政党間対立の構図の変化によって動揺し、執政の弱体化をもたらしていることを示した。 また研究を遂行する中で、イギリス議会が急遽解散され、2019年12月に総選挙が行われたことから、政党組織や政党間対立の変化がその結果からうかがえるかどうか探索するために、その時点で収集できるデータをもとに試論的な分析を行った。その結果、保守党と労働党との間の対立が、EUを中心的争点とした文化的対立に基づくものへと一段とシフトしているものの、労働党においてはその立場は一貫していないこと、またそのことが、自由民主党との間での選挙区レベルでの「票割れ」につながり、保守党に大敗する結果になったことを分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本来であれば本研究は今年度が最終年度であり、研究が完成する予定であったが、下記の理由から完成には至らず、一年間の研究機関の延長を行うことになった。 「研究実績の概要」にある通り、ここまで政党間対立の構図の変化については検討が当初の計画以上に進んでいる。ただし、本研究課題が完成するためには、各政党がそのような立場の変更をどのような政党内の動態を経て生み出したのかの検討が必要である。本来であれば、2019年度中に、各政党でのインタビュー調査も踏まえた上でその分析を行う予定であったが、EU離脱を目前にした議会政治の混乱と、急遽行われた党首選(保守党)、議会解散、総選挙への準備のため、政党関係者とのアポイントメントが取れず、予定したインタビュー調査を行うことが困難となった。そのためこの調査については、次年度に繰越すこととなった。 ただし、急遽行われた総選挙で敗北した労働党においては、新たに党首選が行われた。このことにより、上記のような政党組織的動態を分析するための事例が新たに加わったこともあり、総選挙の結果についてのより深まった分析が行いうることと合わせて、一年間延長したことによってより積極的な観点から研究をさらに進捗させることが可能である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、理論枠組の形成と政党間対立の構図の変化に関しては、一定の進捗が見られている。今後は、これらを土台としながら、残された論点の解明を行う。 まず理論枠組に関しては、ここまで対立軸の二次元化という視点を導入した理論枠組を主に政党間対立の分析に対して導入してきたが、今後は、それらを政党間だけでなく政党内の動態にも結びつけた形で理論化可能かどうかの検討へと進む。そのためもう一度、政党組織論などの状況を含めた、文献資料の検討が必要になるだろう。 また、政党内の動態を分析する具体的対象としては、2020年に入ってから行われた労働党党首選に焦点を定めることになるだろう。その過程の中で、現在の政党組織は党内アクターの行動をどのように制約・促進してきたかを分析するとともに、その中で政党間対立の二次元化がどのような影響を与えてきたかも検討することになる。この点に関しては、労働党関係者へのインタビューを行うことが必要となるが、海外調査が困難な状況が続いた場合には、メールやオンラインでのインタビュー調査へと切り替えることも検討する。 これらを中心としながら、政党間対立の構図の変化を2019年総選挙の結果も踏まえながら位置付け直すことが、最終的な目的となる。2019年総選挙に関しては、これまでも試論的な分析は行ったが、今後より詳細なデータを収集・分析することによって、政党間対立の観点からイギリス政党政治の変化について最終的な結論を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、2019年度中にイギリスの政党本部等でのインタビュー調査を中心とした海外調査を予定していたが、EU離脱をめぐる議会の混乱や、議会解散に伴い急遽行われた総選挙のために、調査対象である各政党の担当者とのアポイントメントが取れない状況となった。その後のコロナ禍の影響もあり、主には海外調査旅費の予定だった費用が、次年度使用額となっている。 したがって、この費用に関しては、当初の予定だった海外調査のための旅費と、その後の新たな状況に対応するための文献調査費用に当てる。ただし、海外調査が困難である場合には、オンライン調査や、文献・文書資料調査へと切り替え、そのための主には物品費として使用する。
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