研究課題/領域番号 |
17K03529
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
小谷 英生 群馬大学, 教育学部, 准教授 (80709147)
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研究分担者 |
淵田 仁 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 日本学術振興会特別研究員 (00770554)
野原 慎司 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 講師 (30725685)
安藤 裕介 立教大学, 法学部, 准教授 (50771888)
佐藤 空 東洋大学, 経済学部, 講師 (60749307)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 歴史叙述 / 啓蒙 / 18世紀ヨーロッパ / 18世紀アメリカ / 思想史 / ナショナリズム / グローバル市場 |
研究実績の概要 |
本研究の課題は、18 世紀英米独仏における歴史叙述の相互関係に着目し、啓蒙期の歴史叙述がグローバル市場と帝国の思想的起源において果たした役割と、ネイション意識の形成・発展のために果たした役割とを具体的に明らかにすることである。初年度の2017年度ではまず、歴史叙述という方法が18世紀においてどのように思念されていたのかを研究した。具体的な作業報告は下記の通りとなる。 (1.研究会の開催)定例の研究会を2017年6月10日、9月12-13日、2018年1月21日に行った。 (2.研究報告) 学会報告として、二つのセッションを企画した。 ①日本哲学会(2017年5月21日、一橋大学)公募ワークショップ「政治哲学と人文主義の伝統」。上野大樹氏(研究協力者)が「思想史研究の隠されたモデルとしての政治哲学――アーレント・シュトラウスから近世人文主義へ――」を、小谷が「啓蒙、歴史、ネイション――18世紀から見たヘーゲル歴史哲学のプロブレマティーク」というタイトルで18世紀ドイツにおける歴史叙述方法論に関する報告を行った。②社会思想史学会(2017年11月4日、京都大学)セッション「ヨーロッパ啓蒙期の歴史叙述」。 上村剛氏(研究協力者)が「理性と経験の間――建国期アメリカのブリテン国制史叙述をめぐって」、淵田仁氏(研究分担者)が「ルソーにおける歴史の語りの検討」という題目で発表した。どちらも午前中のセッションだったものの、30名以上の参加者が集まり盛況であった。2018年度も継続的に開催する予定である。 (3.論文)(2)の①の報告ペーパーを加筆・修正して論文として出版した。また、「窮余の嘘」問題をめぐるカントとコンスタンの論争をまとめたペーパー(2012年口頭報告済み)を大幅に加筆・修正して出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29 年度の作業目標は歴史叙述という方法それ自体に定位し、歴史叙述は現在及び未来世界を政治・経済的に把握し、方向づけようとする知の方法であったことを具体的に実証することであった。この目的を遂行するために、前記(1)では研究プロジェクトチームのメンバー・ゲストによる研究発表の他、ポーコック『島々の発見』や杉本隆司『民衆と司祭の社会学:近代フランス〈異教〉思想史』、その他関連する外国語論文を講読した。その結果方法論としての歴史叙述に関しては研究がスムーズに進み、2017年度内に成果を出すことができた。前記(2)の①および(3)の小谷報告/論文ではヘーゲルの歴史哲学に至る歴史主義が18世紀ドイツでいかに準備されてきたのか、とりわけ感性から理性に至る人類の発展という思考方法がいかになされてきたのかが、イーゼリンやカント、ヘルダーらの議論を通じて分析された。(2)の②の上村報告では建国期アメリカにおける方法について、淵田報告においてルソーにおける方法についてそれぞれ明らかにされた。 以上のように、18世紀において方法論としての歴史叙述とは何であったのか、英米独仏それぞれにおいていかなる学術的・政治的意味を持っていたのかについて、研究はおおむね順調に進捗していると判断される。この路線の研究をさらに進めながら、より具体的な記述内容にまで踏み込んで分析していくことが2018年度以降の課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、平成30年度は18 世紀の政治経済学および社会哲学と歴史叙述の関係を解明する。定例の研究会を年4回程度開くと共に、啓蒙と歴史叙述をテーマにした学会セッションの企画・運営や、独自の公開シンポジウムなどを企画する予定である。具体的な研究内容は下記の通りである。 (1)バークの歴史叙述を重商主義的国際競争を文脈として再検討する。その際彼の生活様式や国民気質、戦争論に着目し、騎士道精神とキリスト教をヨーロッパ文明の「基盤」に置くバークの政治思想が、ネイション意識と経済成長を統合しつつ発展していったことを実証する。 (2)フランス啓蒙の歴史家によって描かれた英仏の国家イメージとの比較を行なう。具体的には第二次英仏百年戦争に注目し、英仏のナショナリズムの高まりが両者の歴史叙述を通じてどのような他者像を描き出すことになったかを検証する。 (3)後期啓蒙における英仏思想の受容、アリストテレスやキケローらの古典の復権、およびそれらを通じたドイツ独自の政治・経済・社会思想について、その未熟さも含めて再検討し評価する。具体的にはトマス・アプトやガルヴェ、フーフェラントやアッヘンヴァルらの自然法論・市民社会論・共和主義論・世界市民論・植民地論と、カントのそれと比較検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度内に納品できない書籍が存在したために、10,999円差額が出てしまった。次年度は物品購入を前倒し、より計画的に使用することで差額を失くしていくようにしたい。
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