本研究の最終年度である本年度において申請者は主に福地桜痴(源一郎)の保守主義を、主に「演劇的熟議」という鍵概念によって理論化することを試みた。その作業の前提として、政治思想史・政治理論的な意味における「保守主義」とは何かをめぐる原理論の作業――それは政治思想史の方法論にまで遡及することを余儀なくさせるものだった――と、他方では福地が対決を余儀なくされた同時代の福沢諭吉や明六社系の知識人、その「弟子」としての「自由民権運動」を福地理解のコンテクストとして浮かび上がらせる歴史的作業が必要となった。 これらの作業が想定より難航したために(この問題について若干の成果物を出すことはできたが)、肝心の「演劇的熟議」の理論的彫琢が不十分に終わってしまった感は否めず、いまだに成果物の形で世に問えていないのは遺憾である。また、当初は予定していた欧米圏や中華圏における政治小説との比較研究は、申請者の能力の不足と内外の多事により全く不十分であった。 とはいえ、福地桜痴の後期の史論と一連の小説や戯曲や関連資料を系統的に収集し、集中的に読み込む作業は、本科研費のおかげをもって、なんとか遂行できたと考えているので、この点は他日に研究成果を世に問うことができたらと考えている。また、福地桜痴の伝記的研究についてもいずれ世に問いたいと考えている。これも、もし完成した暁には、本科研費の成果物として数えることができるだろう。
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