最終年度は、これまでの研究成果のとりまとめにあてた。特に、日本の事例、すなわち東京都と大阪市の水道事業を対象として、その発展が地方公営企業の自律性と関係していることについて、個別に発表してきた論文等を一冊の単著にまとめた。 研究期間を通じて、①日本の地方公営企業制度の歴史的な発展過程とその特性、その下での東京都と大阪市の水道事業の発展過程とその違いをもたらす制度的要因、②ドイツの地方公企業制度の特性と、その下でのドイツ(特にベルリン)における水道事業の民営化(反民営化)および再公営化の過程と成果を明らかにした。 第一に、日本の地方公営企業制度は独立採算制を特徴としているが、加えて、直営方式が採用されている。地方公営企業制度は、独立採算制を介して自償性に基づく資金調達メカニズムである。一方、直営であることは、地方公営企業が担う公共サービス提供の任務が地方自治の本分そのものであること、また、身近な公共サービス提供を担うことで住民の関心を自然と集め、民主主義の学校と機能し得ることを意味していた。地方公営企業法には、公益企業としてのイメージと直営企業としてのイメージが積み重なっており、そのいずれのイメージによるのかは、それぞれの自治体における運用過程によって異なり得ることが明らかになった。実際、東京都と大阪市では、地方公営企業としての水道事業の管理者の人事慣行に違いが見られ、それが両市の水道事業の発展の違いを生み出していたことがわかった。 第二に、ドイツの地方公企業制度では、組織形態の選択の裁量を自治体側に認めていることから実際に多様であり、その下で、民間企業の出資を受ける「第三セクター方式」による部分的民営化が実施されてきた。部分的民営化は事業から生じる利益の分配構造に影響を及ぼすのだが、それに対する不満から再公営化が実施されてきたプロセスを明らかにした。
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