研究課題/領域番号 |
17K03564
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
坪郷 實 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 名誉教授 (20118061)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | リアル市民社会 / デモクラシー / 難民支援の市民活動 / ドイツ連邦議会選挙 / NPO / 自治体改革 |
研究実績の概要 |
(1)ドイツと日本のリアル市民社会の特徴と課題を整理し、リアル市民社会とデモクラシーの関係性を分析する分析枠組みを明らかにした。ここでは、市民社会の動向がデモクラシーに影響を及ぼし、デモクラシーの活性化が市民社会の活性化につながるという相互関係が重要な点である。 (2)リアル市民社会についてのドイツの事例に関して、第1に、これまでの実態調査に基づき自治体レベルにおける難民支援の市民活動の実態を把握した。第2に、外国人敵対的なPegida運動の参加者、反難民・反EUを掲げる「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持者に関する実態調査を分析した。これを踏まえ、2017年9月24日のドイツ連邦議会選挙結果と共に、新たな大連立政権に向けた各政党の動きを分析し、その一部を論文にまとめて公表した。選挙ではAfDが初めて議席を獲得したが、キリスト教民主・社会同盟が第1党を維持し、新政権樹立まで時間がかかったが再びメルケル大連立政権が成立した。AfDの支持者の特徴として、就業者が3分の2、その内ホワイトカラーが半数、7割が男性、従来の棄権者や初めての投票者さらに既成政党の支持者から票を集めていること、全人口と比較して「愛国主義を伴う外国人敵対性」に関する数字が高いこと等が指摘できる。 (3)リアル市民社会の日本の事例として、ヘイトスピーチをめぐる対抗状況の事例、脱原発依存とエネルギー政策の転換の事例(関連した著書を刊行した)、安保法制をめぐる新たな社会運動の事例について、資料収集を行った。これらはリアル市民社会内の動向とデモクラシーの関係性を把握する重要な事例である。 (4)日本における自治体改革と市民活動促進政策に関しては、長野県飯田市、岐阜県可児市、垂井町、愛知県新城市において、ヒアリング調査を行い、地域課題の解決のために自治体とNPO法人等地域の主体との連携協力が重要である事例を把握した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)リアル市民社会とデモクラシーの関係性に関する文献を収集し、その分析を行なうための分析枠組みを明らかにした。 (2)ドイツのリアル市民社会に関する事例研究については、一方で難民支援の市民活動の実態調査、他方で「西欧のイスラム化に反対する愛国的ヨーロッパ人(Pegida)」運動の参加者及び「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持者についての実態調査を踏まえて、ドイツのリアル市民社会の実態を把握し、論文「ドイツにおける難民支援の市民活動と多様性・参加戦略」を公表した。リアル市民社会とデモクラーの関係性に関しては、主要政党の政策動向やAfDの支持者像に焦点を合わせて、ドイツ連邦議会選挙戦、選挙結果、連立交渉プロセスの分析を行い、論文「2017年ドイツ連邦議会選挙と政党政治のゆくえ」を公表した。ドイツ連邦議会選挙に関しては、ベルリンやフランクフルト・アム・マインにおいて、主要政党の政策スタッフや政治学者にヒアリングを行い、論文執筆に当たって非常に有益であった。 (3)日本のリアル市民社会の事例研究に関しては、資料収集を行い、次年度のヒアリングの準備を行った。脱原発依存とエネルギー政策の転換の事例について、著書『環境ガバナンスの政治学』(第7章)を刊行した。 (4)日本のリアル市民社会の実態と自治体レベルにおける新たなデモクラシーの展開を把握するために、長野県飯田市(市役所、市議会、NPO法人南信州おひさま進歩)、岐阜県可児市(市議会)、愛知県新城市(市企画部まちづくり推進課)、岐阜県垂井町(NPO法人泉京・垂井事務所、府中地区まちづくりセンター、垂井町まちづくりセンター)においてヒアリング調査を行った。関連して、「自治体議会への市民参加の新たな段階」を公表した。 このように、ドイツと日本の事例研究に関する情報収集とヒアリング調査を進めており、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
(1)平成29年度は、研究協力者である市民社会研究会のメンバー(伊藤久雄氏、小林幸治氏)の協力により、長野県、岐阜県、愛知県において自治体改革・自治体議会改革、市民活動推進政策、自治体とNPOの連携協力に関するヒアリング調査を実施した。これと比較しながら、平成30年度は、埼玉県(所沢市等)、東京都(調布市等)など首都圏において、同様のヒアリング調査を行う。 (2)日本のリアル市民社会の事例研究に関しては、①ヘイトスピーチをめぐる対抗状況の事例(川崎市の事例)、②脱原発依存とエネルギー政策の転換の事例(東京都内の市民電力の事例、全国的な市民電力の動向分析等)、③安保法制をめぐる新たな社会運動の事例(市民連合の動向等)に関して、自治体や関係者・専門家に対してヒアリングを行うと共に、研究協力者と共に、年間4回程度、市民社会研究会を開催し、リアル市民社会とデモクラシーの関係性に関する事例研究の分析を進める。 (3)ドイツのリアル市民社会の事例に関しては、引き続き、リアル市民社会の実態把握を進め、リアル市民社会とデモクラシーとの関係性の分析を進める。昨年から継続して、ベルリン自由大学のマイク・シュプロッテ博士、マーティン・ルター大学(ハレ=ヴィツテンベルク)ゲジネ・フォリヤンティ教授、デュイスブルク=エッセン大学のモモヨ・ヒューステベック博士の協力を得られる。市民社会に関する研究動向として、昨年ヒアリングを行ったアンスガー・クライン博士(市民活動連邦ネットワーク)らによって、市民社会と市場経済(資本主義)に関する研究が行われているので、この動向にも注目する。 このような推進方策により、リアル市民社会とデモクラシーの関係性に関する事例研究についてのヒアリングと分析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
千円以下の残額が出たため、次年度の消耗品費(インクカートリッジ)に充てる。
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