研究課題/領域番号 |
17K03571
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
徳久 恭子 立命館大学, 法学部, 教授 (60440997)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 政治学 / 政策アイディア / 教育政策 / 地方創生 / 公立高校移管問題 / 政府間関係 |
研究実績の概要 |
本研究は、教育政策を例に地方政治の多様性を明らかにしようとするものである。この目的に即し、2017年度は連携研究者と共に、北海道奥尻町における公立高校の町立移管に関する聞き取り調査を行なった。この事例は、人口減少時代に統廃合が課題とされる公立高校のあり方に一石を投じたものであり、かつ、それを支える理念が“高校を核とするまちづくり”、地元産業と直結した人材育成、流出を前提としながらも高度職業人の育成を目指すというこれまでにないものであり、人口減少時代における持続可能な自治体のあり方、およびその多様性を検討する格好のケースだといえる。地域創生は中央政府の掲げる課題(政策アイディア)であるものの、それをどのように制度化もしくはlayeringやdriftの制度変化に至るかどうか、また、制度改革の起爆剤にするかどうかは、地方政府や地方議員、住民の判断によるところが大きい。本事例は、2000年代以降の政策アイディアの変化を捉えるうえで好例であることがヒアリング調査で確認された。 他方、研究代表者は教育政策における政策アイディアの変化を通時的に検討する作業を単独で行った。主たる作業は、二次文献の読み込みと文部省および文部科学省、中教審をはじめとする各種審議会の答申や報告書を丹念に検討し、整理するといったものである。ここで得られた知見の一部は、2017年9月の日本政治学会の分科会の報告に生かされている。 文献研究を通じて、先行研究は教育行政の一般性と特殊性を制度から説明してはいるものの、機能面では十分に説明していないことも明らかになった。教育政策の多様性を担保する要因の1つは、柔軟な政府間関係を保障する教育行政の機能にあることから、この点を明らかにすることを来年度以降の課題に追加したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者が2017年6月に緊急手術を受けたことや秋以降検査・通院が続いたこともあり、当初予定していた調査計画を再検討し修正する必要に迫られた。研究計画との兼ね合いからすれば、「やや遅れている」という区分に当てはまる。 しかしながら、その間、連携研究者と研究会を実施したり、メール等の通信媒体で意見交換を重ねる中で、研究計画段階では十分に予想できなかった検討事項を新たに発見することもできた。それが、上の研究実績の概要で示した「教育行政制度の機能的な特殊性が地方政治の多様性を保障する側面をもつ」という仮説である。一般に、公立学校の移管は建物、職員をはじめとする行政リソースの移転を伴うため、権利関係の整理が容易でないし、都道府県でも運営が困難なものを市町村が抱えるという経営上の問題も伴う。にもかからず、それらが可能になるのはなぜか。この問題は、一般的な「分権」という概念では説明できず、教育という政策領域に特有の要素が見出されると推測される。この点を明らかにすることは、新たな知見を示すのみならず、近い将来、義務教育学校や高等学校の統廃合問題に取り組まざるを得ない自治体に手がかりを与える点で、社会的に有意義なものと考える。 こうした研究課題を踏まえ、研究代表者は連携研究者と2018年度以降の研究計画を十分に練り直しており、そのための調査計画もすでに立てられている。この点に注目すれば、研究計画は「おおむね順調に進展している」といえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画は、「現在までの進捗状況」の後半部分にも示したが、2017年度に明らかになった研究課題を受けながら、以下のように進めたいと考える。 1)公立高校の移管問題を例に教育行政の一般性と特殊性を制度およびその機能に注目して明らかにする。一般に、地方政治の多様性は「分権改革」により実現したとされる。しかし、本研究では教育行政における政府間の有機的な連携が存在することで、地方の教育政策の多様性が担保されるという仮説を立て、それを検証することを新たな研究課題として据える。この目的に即し、2018年度は奥尻高校の町立移管に関する調査研究をさらに進めると同時に、大阪府能勢高校の移管に関する調査研究に着手する。 2)政策アイディアの変化を内閣府、総務省、地方自治体の立場から整理し直す。この作業は2017年度の作業と対になるものである。 3)有権者の反応が政策形成にどのような影響を与えるかについて検討する。ここでは、教育に対する有権者の期待を複眼的に理解し、その変化は政策形成により促されるのか、またはその変化が政策の変化を促すのか、もしくは補完的なのかを検討する。この目的に即し、適切な事例を選択のうえ、アンケート調査などを実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の健康上の理由(手術や検査、療養のための通院)があり、当初予定していた調査の変更および先送りを余儀なくされたことが第一に挙げられる。第二に、当初支出を予定していた連携研究者の出張旅費の大半を、二名の連携研究者にご負担いただいたことが挙げられる。この措置は、研究費を次年度以降に実施を予定している海外調査に充てる方向で基金を繰り越すことが、研究代表者の体調の面でも、また、研究成果をあげる上でも望ましいと判断したことに基づいている。 これとは別に,繰越資金はヒアリング調査やアンケート調査に必要な経費に充てることを予定している。 使用計画の変更は、研究代表者の健康問題によるところが大きいが,それと同時に,2017年度の研究で確認された新たな研究課題を探求することが、最終的には本研究目的に資すると思われる。新たな使用計画に則して,効率的な予算執行と研究成果の実現を図りたいと考える。
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