一党優位制の典型のトルコを事例として、世論調査データを用いて、(1)長期的および短期的な経済業績、汚職認識、社会的亀裂が政権支持に影響を与えているのか、(2)一党優位制の定着から衰退の過程においてこれらの変数の相対的な重要性はどのように変化するのか、を統計的に検証するという研究目的に従い、これまで蓄積した世論調査データを用いて、一党優位制において経済業績投票がどのような状況で強まったり弱まったりするかを分析した。一般的に社会保障や汚職対策に対する肯定的評価は経済業績投票を弱めることがこれまでの研究で知られている。しかしそれらが経済業績投票の懲罰行為と褒賞行為の両方を弱めるのかそれともどちらかのみかはこれまで検証されてこなかった。今回の分析ではこの点に着目し、社会保障は褒賞行為を、汚職対策は懲罰行為を抑制することを明らかにした。この成果を論文として完成し、ジャーナルSouth European Society and Politicsに投稿した。また後光効果を検証すべく、短期的な経済業績評価のみならず長期的な経済業績評価の効果をも加えたモデルを用いて2014年と2019年の投票行動を比較分析した。2014年は一人当たり米ドル換算国民所得経済の低下傾向が始まった年である。過去5年と過去1年の傾向が食い違う。これに対し、2019年は過去5年と過去1年の傾向が同様である。このため、2014年は、長期的評価が短期的評価よりも強く働くという後光効果が現れるが、2019年は後光効果が現れないという仮説を検証し、それを支持する結果を得た。この成果はトルコの研究協力者が編纂する書籍に掲載される。トルコでの調査に関しては、コロナ感染拡大に伴い現地調査が不可能となったため、電子メールやZOOM会議によりIPSOS、Aksoy、Kondaなどの世論調査会社やKoc Universityとトルコ世論の現状や調査方法に関する意見交換を行った。
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